iFi Audio
「音楽の楽しみ」を再定義する、英国の個性派ブランド。測定値至上主義とは一線を画し、バーブラウンのDACチップやアナログ回路による独特の「iFiサウンド」を追求する。XBass+や3D+といった多彩な音響補正機能は、リスニングをより豊かにするツールとなる。しかし、その哲学はポリシーの定める客観性・忠実性の基準とは相容れず、コストパフォーマンス評価も極めて低い。データよりもフィーリングを重視するユーザーのための選択肢と言える。
概要
iFi Audioは、英国のハイエンドオーディオメーカーAMR (Abbingdon Music Research) の姉妹ブランドとして2012年に設立されました。ポータブルな小型DACからデスクトップオーディオまで幅広い製品を手がけており、特に多機能性と独特の音作りで世界中のオーディオファンから支持を集めています。既製のチップを使いつつも、独自のファームウェアや「S-Balanced」といったアナログ回路技術を組み合わせることで、iFiならではのサウンド体験を提供することに注力しています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.5}\]iFi Audioの製品開発は、工学的な基礎に基づいている一方で、その目標は必ずしも客観的な忠実性の追求ではありません。同社は、測定スペックで最良とは限らないバーブラウン製のDACチップを「音楽的である」という理由で一貫して採用しており、XBass+(低域増強)や3D+(音場拡大)といった音質を積極的に変化させるアナログ機能を製品の魅力としています。これらは有効な信号処理技術ですが、原音をいかに正確に再現するかを評価の絶対基準とする当サイトのポリシーとは哲学的に相容れません。科学的アプローチと主観的チューニングが混在しているため、評価は0.5となります。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]iFiは高い技術開発力を持っています。既製のDACチップを使用しつつも、その周辺のアナログ回路や電源部は自社で設計しており、特に「S-Balanced」回路は、シングルエンド接続でもバランス接続に近いクロストーク低減効果を狙った独創的な技術です。また、GTO(Gibbs Transient-Optimised)フィルターを含むファームウェアを自社開発し、ユーザーが音質の傾向を選べるようにしている点は、高度なデジタル信号処理技術の証左と言えます。DACアーキテクチャそのものを開発するレベルではありませんが、既存技術を高度に昇華させる応用力は高く評価できます。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.2}\]iFi製品のコストパフォーマンスは非常に低いと評価せざるを得ません。例えば、iFi zen DAC V2(¥28,000、THD+N 0.00017%)に対し、Topping DX1(¥12,000、THD+N 0.00006%)のように、同等以上の測定性能を持つ製品が半額以下で存在します。同様に、iFi hip-dac 3(¥45,000、THD+N 0.003%)に対して、SMSL SU-1(¥8,000、THD+N 0.00007%)が圧倒的に優れた測定性能を1/5以下の価格で提供します。CP = 8,000 ÷ 45,000 = 0.18となり、iFi製品の価値は多機能性や独自の音響効果に依存しているため、純粋な性能対価格比では極めて低い評価となります。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.6}\]iFi Audioは世界的な販売網を持つ確立されたブランドであり、基本的なサポート体制は信頼できます。しかし、複数の製品レビューにおいて、ボリュームノブのぐらつきや接続端子の接触の甘さ、最適な性能を発揮するためのクリーンなUSB電源への依存など、いくつかのハードウェア的な品質管理や設計上の妥協点も指摘されています。大手としての安心感はありますが、細部の完成度には改善の余地があるため、評価は0.6とします。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.4}\]iFiの設計思想は「リスニング体験をより楽しく、豊かにすること」に主眼が置かれており、その目的のためには非常に合理的です。XBass+や3D+といった機能は、ヘッドホンの特性や個人の好みに合わせて音を調整するための有効なツールです。しかし、当サイトのポリシーが定義する「合理性」とは、あくまで「ソースに含まれる情報をいかに損失・変質なく伝達するか」という命題に対する工学的な最適解の追求を指します。意図的に音を変化させることを前提とした設計は、この定義とは方向性が異なるため、低い評価となります。
アドバイス
もしあなたが、オーディオをスペック競争ではなく、純粋な音楽の楽しみを深めるためのツールとして捉えているのであれば、iFi Audioは非常に魅力的な選択肢となり得ます。特に、使用するヘッドホンや聴く音楽に合わせて積極的に音を調整したいユーザーにとって、XBass+や3D+といった機能は大きな武器になるでしょう。
一方で、ソースに記録された情報をありのまま、色付けなく再生することを理想とするならば、このブランドは避けるべきです。より安価で、はるかに高い測定性能を持つ製品が他に存在します。iFi製品を選ぶということは、その独特のサウンド哲学と機能性に価値を見出すという、明確な意思表示と言えるでしょう。
(2025.7.6)