Marantz
1953年創業のプレミアムオーディオブランド。独自のHDAM技術による「暖かく音楽的な音」で知られ、測定性能も優秀。Denonと同じくHarman傘下で、より高級志向の製品を展開。優れた技術と音質を持つが、Topping等、同等以上の性能を持つ製品がはるかに安価に存在するため、コストパフォーマンスは極めて低い。音楽性やブランド価値を重視するユーザー向けのブランドです。
概要
Marantzは1953年にSaul B. Marantzによってニューヨークで創業されたプレミアムオーディオブランドです。当初は高級オーディオアンプの製造で名を馳せ、その後日本企業の傘下となり、2002年にDenonと合併してD&M Holdingsを形成。現在はHarman International(Samsung傘下)の一部として、高級オーディオ市場で独自の地位を確立しています。
同社は「音楽的で暖かい音」という独特のサウンドシグネチャーで知られ、特に独自開発のHDAM(Hyper Dynamic Amplifier Module)技術は、同社の音質哲学を体現する重要な要素です。製品ラインナップはステレオアンプ、AVレシーバー、CDプレーヤーなど多岐にわたり、いずれも洗練されたデザインと高い音質で評価されています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.8}\]Marantzの製品は優秀な測定性能を示しています。AMP 10は96dB SINAD(0.0015% THD+N)を100W/chまで維持し、Model 30は10kHz以下で極めて低いTHD+Nを記録。主な歪みは比較的無害な第3高調波で、相互変調歪みも非常に低く抑えられています。MODEL 10の122dB SNR(バランス入力)など、測定値は業界トップクラス。ただし、「暖かい音」という主観的特性と客観的測定値の相関については議論の余地があり、完全に科学的とは言えない側面も残されています。
技術レベル
\[\Large \text{0.9}\]MarantzはHDAM技術を中心に、業界最高水準に近い技術力を保持しています。HDAM-SA3は数十の独立部品を手作業で選別し、純粋で詳細なサウンドを実現。MODEL 10では新開発のHDAM5ディスクリートアンプ、デュアルモノ対称アンプトポロジー、高速トランジェント応答、極めて広い帯域幅を実現。サウンドマスターによる綿密なチューニングプロセスも、同社の技術的こだわりを示しています。ただし、基本的な回路技術はDenonと共有する部分も多く、差別化は主にチューニングと部品選定にあります。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.1}\]Marantz製品は優れた測定性能を持ちますが、Toppingに代表されるメーカーが同等かそれ以上の性能を、はるかに低い価格で実現しています。STEREO 70s(15万円、THD+N 0.08%、80W+80W/8Ω)に対し、同等性能のTopping PA5 Plus(2.5万円、THD+N 0.0004%、80W+80W/8Ω)が存在するため、CP = 2.5万円 ÷ 15万円 = 0.17。MODEL 10(60万円、THD+N 0.001%、200W+200W/8Ω)に対し、同等性能のTopping LA90 Discrete(8万円、THD+N 0.0007%、200W+200W/8Ω)が存在するため、CP = 8万円 ÷ 60万円 = 0.13。主力製品で世界最安製品の6-7倍の価格設定となっており、コストパフォーマンスは極めて劣位です。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.8}\]Marantzは長年の実績に基づく高い信頼性を誇ります。特に高級モデルは耐久性に優れ、10年以上の使用に耐える設計となっています。Sound United(現Harman)グループとしてグローバルなサポート体制を持ち、正規代理店による修理対応も充実。ただし、高級ブランドゆえに修理費用も高額になる傾向があります。品質管理は厳格で、初期不良率は低く抑えられています。ファームウェアアップデートも定期的に提供されますが、Denonほど頻繁ではありません。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.6}\]Marantzの設計思想は「音楽性の追求」という主観的要素を重視しており、純粋に合理的とは言えません。HDAM技術や手作業による部品選定は、測定可能な性能向上よりも「音楽的な音」の実現を目指したもので、科学的根拠が不明確な部分もあります。一方で、優れた測定性能も同時に達成しており、完全に非合理的というわけではありません。高価格設定は、ブランド価値と職人的こだわりによるもので、純粋な性能対価格の観点からは合理性に欠けますが、所有する満足感という価値も無視できません。
アドバイス
Marantzは、音楽愛好家で「暖かく音楽的な音」を求め、かつ予算に余裕がある方に最適なブランドです。特にジャズやクラシックを中心に聴く方には、その音色の魅力が十分に感じられるでしょう。美しいデザインと高い所有満足度も、価格に見合う価値の一部です。
しかし、純粋な測定性能やコストパフォーマンスを重視する場合、Topping、SMSL、Denon、Yamahaなどがより合理的な選択となります。特に予算が限られている場合、同等以上の性能をはるかに安価に入手できる選択肢が多数存在します。購入前に、ブランド価値と音楽的な音にどれだけの対価を支払えるか、慎重に検討することが重要です。
(2025.07.05)