NAD
1972年創業のカナダの音響機器メーカー。Masters M33のような最新ストリーミング統合アンプでは、Purifi Eigentakt技術により THD<0.00017%という卓越した測定性能を実現。しかし価格面では、同等機能をPCベースのDACソリューション(RME ADI-2 + miniDSP SHD等)で半額以下で実現可能であり、統合型の利便性を考慮してもコストパフォーマンスは限定的。
概要
1972年創業のカナダの音響機器メーカー。「New Acoustic Dimension」の略称で知られ、手頃な価格で高性能なアンプを提供することで評価を築いてきました。近年はMasters M33 V2(約60万円)のような最新ストリーミング統合アンプから、C658(約18万円)+ C298(約22万円)のようなセパレート構成まで、幅広い製品ラインナップを展開しています。
特に2025年モデルのM33 V2では、Purifi Eigentakt技術とESS SABRE DAC、BluOS統合プラットフォーム、Dirac Live室内補正を組み合わせ、測定性能と実用性を両立させています。従来のアナログ重視のアプローチから、デジタル技術を積極的に取り入れた現代的な設計への転換が特徴的です。
科学的有効性
\[\Large \text{0.9}\]Masters M33 V2の測定データは極めて優秀で、THD<0.00017%(全出力・全周波数帯域)という数値は客観的に検証可能な性能です。200W+200W(8Ω)、700W(ブリッジ)の出力も実測値で確認されています。Dirac Live室内補正の効果は周波数特性の改善として測定可能で、科学的根拠があります。C298の185W+185W(8Ω)、340W+340W(4Ω)も実測値として信頼性が高く、全体的に主観的評価ではなく測定データに基づいた製品開発が行われています。
技術レベル
\[\Large \text{0.9}\]Purifi Eigentakt技術の採用は技術的に先進的で、従来のクラスAB増幅回路を上回る効率と低歪みを実現しています。ESS SABRE ES9039PRO DAC、BluOS統合プラットフォーム、Dirac Live補正など、現代的な技術を適切に組み合わせた設計は高く評価できます。50年以上の増幅回路設計経験と、最新デジタル技術の融合により、測定性能と実用性を両立した製品を実現しています。ただし、基本的な技術は他社との共通部分が多く、独自性という点では限定的です。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.3}\]Masters M33 V2(60万円)のストリーミング・DAC・室内補正機能は、RME ADI-2 DAC FS(12万円)+ miniDSP SHD(14万円)の組み合わせ26万円で同等以上の性能を実現できるため、CP = 26万円 ÷ 60万円 = 0.43。さらにTopping D90(7万円)+ Raspberry Pi + Volumio(2万円)の組み合わせ9万円でも基本的なストリーミング機能を実現できるため、CP = 9万円 ÷ 60万円 = 0.15。C658(18万円)もminiDSP SHD Studio(10万円)で同等機能を実現できるため、CP = 10万円 ÷ 18万円 = 0.56。統合型の利便性を考慮しても、PCベースのDACソリューションに対して価格競争力は限定的です。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.8}\]50年以上の製造実績とカナダでの品質管理により、信頼性は高水準を維持しています。BluOS統合プラットフォームは定期的なソフトウェア更新により機能改善が継続されており、長期的なサポート体制も整っています。ただし、デジタル技術を多用した製品では、将来的な互換性やサポート終了のリスクが純粋なアナログ製品より高い点は考慮が必要です。グローバルな販売網も整っており、アフターサービスは概ね良好です。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.5}\]基本的な増幅回路設計と最新デジタル技術の組み合わせは合理的です。Dirac Live室内補正の採用は実用的で、測定データに基づいた音質改善アプローチは科学的です。しかし、BluOS統合やストリーミング機能の内蔵は、純粋なアンプとしての機能から見ると冗長な側面があります。また、高級機の価格設定では、技術的優位性に対して価格が高めに設定されており、完全に合理的とは言えません。伝統的な「音質」重視の評価基準も一部残っており、科学的根拠に基づく評価が徹底されていない面もあります。
アドバイス
NADは測定性能と実用性を両立した現代的なアンプメーカーとして、多くの用途で優れた選択肢となります。
- 統合型重視の方: Masters M33 V2は60万円で一体化されていますが、RME ADI-2 DAC FS(12万円)+ miniDSP SHD(14万円)+ Benchmark AHB2(40万円)の組み合わせ66万円で同等以上の性能と柔軟性を得られます。
- セパレート志向の方: C658(18万円)よりもminiDSP SHD Studio(10万円)の方が8万円安価で同等のストリーミング・室内補正機能を提供します。
- 予算重視の方: Topping D90(7万円)+ Raspberry Pi + Volumio(2万円)の組み合わせで、NADの1/3の価格で基本的なストリーミング機能を実現できます。
PCベースのDACソリューションと比較すると、NADの価格設定は統合型の利便性を考慮しても合理的とは言えません。技術的には優秀ですが、コストパフォーマンスを重視するなら他の選択肢を検討することをお勧めします。
(2025.07.05)