Pass Labs

総合評価
2.4
科学的有効性
0.7
技術レベル
0.3
コストパフォーマンス
0.0
信頼性・サポート
0.9
設計思想の合理性
0.5

1991年創業、Nelson Pass率いるアメリカの高級アンプメーカー。MOSFETを用いたA級/AB級設計にこだわり、シンプルで自然な音質を追求。測定データは良好ですが、その設計は大きな電力消費と発熱を伴うため、現代の基準では合理性に欠ける側面も指摘されます。また、最新の高性能D級アンプと比較してコストパフォーマンスは極めて低いです。企業の信頼性は高いものの、技術的には時代遅れの側面が強く、現代の工学的視点では評価が困難です。

アメリカ Nelson Pass MOSFET A級 AB級 California

概要

1991年にNelson Passによりカリフォルニア州で創業されたハイエンドアンプメーカー。Nelson Passは1974年からThreshold社の社長を務めた経験を持ち、20年以上にわたってImproved Class A Stasis回路など数々の革新的回路を設計してきました。カリフォルニア大学で物理学を学び、アンプ設計に関する多数の特許を所有しています。

現在の開発スタッフは全て音楽愛好家で、Nelsonの監督の下、「聞こえるべきもの、聞こえてはならないもの」を理想的に実現することを目指しています。設計思想はシンプルで自然な特性の提供であり、これを実現するためMOSFETを採用したXシリーズ、XAシリーズ、XSシリーズを展開。毎年カリフォルニア州セバストポールで開催される「Nelson Pass Amp and Speaker Camp」は年々人気が高まっています。

科学的有効性

\[\Large \text{0.7}\]

Pass Labsの製品は測定データが公開されており、非科学的な主張が見られない点は評価できます。XA25では0.01% THD+Nで25W/50W(8/4Ω)、XA60.8では8Ω負荷で0.1%以下のTHDを実現しています。ただし、XA60.8のS/N比は80.9dB(広帯域)程度であり、これは実用上問題ないレベルではあるものの、最新の高性能クラスDアンプが達成する110dB超の値と比較すると明確に見劣りします。主張する性能はデータで裏付けられているものの、一部の重要指標が現代の最高水準に及ばないため、スコアは限定的となります。

技術レベル

\[\Large \text{0.3}\]

Nelson Pass氏の回路設計は1970年代から1990年代にかけて一定の評価を得ていましたが、現代の技術水準から見ると明らかに時代遅れです。同社のA級/AB級アンプ技術は、最新のクラスDアンプ技術と比較して根本的に劣っています。例えば、Hypex NCx500やPurifi 1ET9040SAといった最新のクラスDアンプモジュールは、Pass LabsのA級アンプよりも遥かに優れたTHD+N(0.0003%以下)、S/N比(120dB以上)、電力効率(90%以上)を実現しています。Pass LabsのXA60.8のS/N比80.9dBは、現代の基準では明らかに不十分です。MOSFETを用いたシンプルな回路構成も、今となっては単なる古い技術の踏襲に過ぎません。最新の技術水準から見て、同社の技術は業界平均を大きく下回っており、技術的優位性は皆無です。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.0}\]

XA25(73万円)は25W/8ΩでTHD 0.01%の性能ですが、例えばFosi Audio V3(約2万円)は同等以上の出力をより低い歪率で実現します。性能に対する価格比は 2万円 ÷ 73万円 ≈ 0.03 となり、レビューポリシーに基づきスコアは0.0と評価されます。同様に、XA60.8モノラルペア(231万円、60W/8Ω)やX250.8(140万円、250W/8Ω)も、ToppingやHypex NCx500ベースのクラスDアンプ(10~20万円台)と比較して、測定性能あたりの価格が10倍以上高価です。例えばTopping PA7 Plus(ペア約14万円)はXA60.8より優れた測定値を示します。純粋な性能に対するコストで評価すると、1/10以下の価格で同等以上の性能を持つ製品が多数存在するため、コストパフォーマンスは最低評価となります。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.9}\]

1991年の創業以来、30年以上にわたって安定した事業を継続しており、企業の信頼性は非常に高いです。創業者Nelson Passが現在も設計の中心にいることで、技術的一貫性が保たれています。日本では株式会社エレクトリが正規代理店として充実したサポートを提供しており、XA60.8で最大5年保証を実施するなど、アフターサービスも万全です。製品の作りも堅牢で、中古市場でも高い価格を維持していることから、長期使用への信頼性が証明されています。Nelson Pass本人のエンジニア魂と企業の安定性により、長期的なサポートが期待できます。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.5}\]

「シンプルで自然な特性」という設計思想自体は一貫していますが、その手段としてA級動作に固執する点は現代の工学的視点から見て合理性に疑問が残ります。A級動作は理論的にクロスオーバー歪みが発生しない利点がありますが、電力効率が極めて低く、膨大な発熱と大型の筐体を必要とします。最新のクラスDアンプが同等以上の低歪み性能を遥かに高い効率で達成している現状を鑑みると、A級の採用は合理的選択とは言えません。測定データを重視する姿勢は科学的ですが、エネルギー効率という重要な指標を軽視しており、スコアを下げざるを得ません。

アドバイス

Pass Labsは技術的完成度と企業の安定性を両立させた、信頼できるハイエンドアンプメーカーです。XA25やXA60.8などの製品は、Nelson Passの設計思想に共感できる方には依然として魅力的な選択肢です。しかし、最高の測定性能やエネルギー効率を求めるのであれば、最新のクラスDアンプなど、よりコストパフォーマンスに優れた選択肢が他に多数存在します。ブランドの思想と歴史に価値を見出すか、純粋な性能と効率を重視するかで評価が大きく分かれるため、購入前には慎重な比較検討が不可欠です。

(2025.7.5)