PSB

総合評価
3.7
科学的有効性
0.7
技術レベル
0.8
コストパフォーマンス
0.9
信頼性・サポート
0.8
設計思想の合理性
0.5

1972年にカナダで創業された老舗スピーカーメーカー。創業者Paul Bartonの設計思想と国立研究評議会(NRC)との協力により、科学的根拠に基づく音響設計で定評を築いています。Alpha P5の圧倒的なコストパフォーマンスは注目に値しますが、他社と比較すると技術的な革新性やブランド力で劣る部分もあります。カナダの音響研究機関と密接に連携した開発姿勢は評価できるものの、全体的な競争力は中程度といえます。

カナダ スピーカー ブックシェルフ NRC Alpha

概要

PSBは1972年にカナダのPaul Bartonによって創設されたスピーカーメーカーです。社名は創業者のPaul Bartonと妻のSue Bartonの名前に由来しています。同社最大の特徴は、カナダ国立研究評議会(NRC)の無響室において全製品の音響調整を行う点にあります。これにより、主観的な音作りではなく、心理音響学に基づいた科学的アプローチを実現しています。

現在はLenbrook Groupの一部として運営されており、2024年にはEISA(欧州映像・音響協会)からAlpha iQが「最優秀ワイヤレスブックシェルフスピーカー賞」を受賞するなど、50年以上の歴史を持つ企業として着実な成長を続けています。「True to Nature」をブランドコンセプトに掲げ、自然な音の再現を追求しています。

科学的有効性

\[\Large \text{0.7}\]

PSBの最大の強みは、カナダNRCとの長期的な協力関係にあります。世界的に著名な心理音響学者Floyd Toole博士との共同研究により、測定データと二重盲検法による聴感テストの両方を重視した開発手法を確立しています。これは業界でも稀有な科学的アプローチです。しかし、公開されている測定データは限定的で、特にTHD+Nや周波数特性の詳細な数値が不明な製品が多いのが実情です。Alpha iQの周波数特性は64Hz-20kHz (±3dB)と公表されていますが、これは特別優秀な数値ではありません。

技術レベル

\[\Large \text{0.8}\]

50年以上の歴史を持つ設計ノウハウと、NRCの無響室での音響調整という独自の開発環境は確実に技術力の向上に寄与しています。特にAlpha iQでは、180W RMS(各ウーファー60W、各ツイーター30W)の専用アンプとDSPクロスオーバーを内蔵し、BluOS統合やUWB(Ultra Wide Band)技術への取り組みなど、現代的な機能も積極的に取り入れています。ただし、ドライバー技術やキャビネット設計において、KEFのMetamaterial技術のような革新的な要素は見られません。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.9}\]

Alpha P5(349ドル)は、Q Acoustics 3020i(449ドル)や ELAC Debut 2.0 B6.2(480-930ドル)と比較して明らかに価格優位性があります。CP = 349ドル ÷ 449ドル = 0.78となり、さらに上位機種との比較では更に優位性が高まります。Alpha iQストリーミングスピーカー(999-1,499ドル)もKEF LS50 Wireless(1,599ドル以上)と比較すると競争力のある価格設定です。ただし、中華系メーカーの同等性能製品と比較すると価格優位性は限定的です。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.8}\]

50年以上の事業継続実績と、現在もLenbrook Groupの一部として安定した経営基盤を持っています。北米市場では適切なサポート体制が整っており、部品供給も比較的良好です。しかし、日本市場での正規代理店体制や修理サポートについては他の大手メーカーと比べて劣る部分があります。製品の耐久性については、特に問題となる報告は見られませんが、中国製造による品質のばらつきを指摘する声もあります。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.5}\]

NRCとの協力による科学的アプローチは高く評価できますが、一方で「RoomFeel Technology」のような独自技術の科学的根拠が不明確な部分もあります。同技術は「理想的な部屋のセットアップを再現する」と謳っていますが、具体的なメカニズムや測定データが公開されていません。また、「True to Nature」というブランドコンセプトも抽象的で、何を基準にした「自然さ」なのかが不明確です。科学的アプローチを標榜する企業としては、より具体的で検証可能な主張が望まれます。

アドバイス

PSBは「手頃な価格で科学的根拠のある音作り」を求めるユーザーに適しています。特にAlpha P5は、限られた予算で高品質なサウンドを求める入門者から中級者に強く推奨できます。

  • 予算重視のオーディオ入門者: Alpha P5(349ドル)は同価格帯で最も完成度の高い選択肢の一つです。KEFやELACの上位機種と比較しても遜色のない音質を提供します。
  • ストリーミング重視のユーザー: Alpha iQ(999-1,499ドル)は、KEF LS50 Wirelessと比較して価格優位性があり、BluOS統合による利便性も高いです。
  • 測定データ重視のユーザー: NRCでの調整という背景はあるものの、公開される測定データが限定的なため、より詳細なスペックを求める場合は他社製品も検討することを推奨します。

購入前には、可能な限り試聴を行い、自身の音の好みとマッチするかを確認することが重要です。

(2025.07.05)