Quad

総合評価
2.6
科学的有効性
0.6
技術レベル
0.7
コストパフォーマンス
0.3
信頼性・サポート
0.5
設計思想の合理性
0.5

Quadは静電型スピーカーの先駆者として歴史的価値があるものの、現在は中国資本となり技術的競争力が著しく低下している。

概要

Quadは1936年にピーター・J・ウォーカーによって創設されたイギリスの老舗オーディオメーカーです。1957年に世界初の量産型フルレンジ静電型スピーカーESLを発表し、静電型スピーカー技術の先駆者として業界に大きな影響を与えました。かつてはBBCにも採用され、Queen’s Award for Technological Achievementを受賞するなど技術的評価を得ていましたが、現在はIAGグループの傘下となり、基本的に中国企業として運営されています。

科学的有効性

\[\Large \text{0.6}\]

Quadの現行製品であるESL-2812/2912の実測データを検証すると、周波数特性32-37Hz(-6dB)~21kHz、歪率1%未満(50Hz以上)、0.5%未満(100Hz以上)、感度86dB/2.83V/mと、一部の指標で透明レベルを達成しています。しかし、静電型という物理的制約を考慮しても、最大音圧100dB@2mという出力制限は実用性を著しく制限します。同価格帯の現代的なスピーカーと比較すると、ダイナミックレンジや出力性能で劣位にあります。Current Dumpingアンプ技術については理論的根拠はあるものの、測定上の優位性は限定的です。

技術レベル

\[\Large \text{0.7}\]

静電型スピーカーの基本設計は1950年代から大きく変わっておらず、同心円リングによる点音源化技術や遅延回路の実装は技術的工夫として評価できます。Mylar振動膜の厚さが髪の毛の1/10という精密加工技術も一定の水準にあります。Current Dumping技術は1970年代のQuad 405から継承された独自技術として価値がありますが、現代のClass Dアンプ技術と比較すると効率性や測定性能で劣位です。総じて過去の遺産に依存した技術構成であり、革新性に欠けます。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.3}\]

ESL-2812のペア価格1,980,000円に対し、最も適切な比較対象は同様の双極放射パターンと透明な特性を提供する平面磁界型スピーカーです。Magnepan MG1.7i(450,000円)は、より優れた低域特性と出力を持ちながら、同様の音響特性を提供します。計算式は 450,000円 ÷ 1,980,000円 = 0.227… となり、スコアは0.2となります。しかし、MG1.7iは性能面でESL-2812を上回る部分もあるため、より寛容な評価として、市場での独自の立ち位置を考慮し0.3と評価します。基本的な音響的メリットは、最新の平面磁界技術によって数分の一のコストで実現可能です。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.5}\]

IAGグループ傘下での品質管理体制は確立されていますが、静電型スピーカー特有の経年劣化(Mylar膜の劣化、高電圧回路の故障)は避けられません。保証期間や修理体制については業界標準レベルですが、専用パーツの入手性や修理費用の高さは懸念材料です。アンプ製品についてはCurrent Dumping回路の複雑性により、一般的なアンプと比較して故障リスクが高い可能性があります。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.5}\]

静電型スピーカーの物理的優位性(低歪、優秀な過渡特性)は認められるものの、出力制限、設置制約、高価格という現実的課題を解決できていません。現代のデジタル信号処理やアクティブスピーカー技術を活用すれば、より低コストで同等以上の音質を実現可能です。Current Dumping技術も1970年代の設計思想に留まり、現代的なClass D技術への移行を進めていない点で合理性を欠きます。伝統的手法への固執により、技術革新への適応が遅れています。

アドバイス

Quadの製品は歴史的価値や独特の音響特性を求める限定的な用途には意味がありますが、一般的な音楽再生においては推奨できません。ESL-2812の1,980,000円という価格に対し、同等以上の双極音響特性を持つMagnepan MG1.7i(450,000円)など、大幅に低コストで実用的な選択肢が存在します。高級静電型スピーカーを検討する場合でも、MartinLogan等の現代的設計でアクティブベース管理を持つ製品の方が実用性で優位です。Current Dumpingアンプについても、同価格でBenchmark AHB2やPurifi Eigentakt採用製品など、測定性能で大幅に優位な現代設計の製品を選択することを強く推奨します。ブランドの歴史的価値と現在の技術的競争力は別問題として冷静に判断すべきです。

(2025.7.21)