See Audio
中国の新興IEMメーカー。優秀なチューニングで知られるが、技術的性能と価格設定に課題がある。
概要
See Audioは2020年頃に設立された中国のInEar Monitor(IEM)専門メーカーです。経験豊富なオーディオエンジニアチームにより、カスタムフィットおよびユニバーサルフィットのハイエンドIEMを設計・販売しています。主力製品としてYume(169 USD)、Neo(1,099 USD)、Kaguya(1,399 USD)を展開し、最新モデルKaguya 2(1,599 USD)では9ドライバーハイブリッド構成を採用しています。同社は特に周波数特性のチューニング技術で評価を得ており、Harman目標曲線に基づいた音質調整を実施しています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.4}\]See Audioの製品は、周波数特性のチューニングは非常に優秀ですが、THD+N(高調波歪率)に深刻な問題を抱えています。多くの製品でTHD+N値が1-2%に達しており、これはIEMにおける問題レベル(0.5%以上)を大幅に超える値です。この高い歪率は、音の解像度やディテールの再現性を明確に損なうため、マスター音源への忠実度という観点では大きなマイナス評価となります。周波数特性という重要な指標で透明レベルに近い性能を持つ点を考慮しても、歪率というもう一つの重要な指標が著しく劣るため、総合的な科学的有効性は平均を大きく下回ります。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]同社はハイブリッドドライバー構成、エレクトロスタティックドライバー、液体シリコンダイアフラムなど現代的な技術を採用しています。Kaguya シリーズでは4基のSonion製エレクトロスタティックドライバーと4基のバランスドアーマチュアドライバーを搭載し、最新のKaguya 2では9ドライバー構成(1DD+4BA+2EST+2BC)を実現しています。CNC加工による高精度アルミニウム合金筐体、独自開発の液体シリコンダイアフラムなど、技術的アプローチは業界平均を上回ります。ただし、これらの技術投入がTHD+Nの改善といった測定可能な基本性能の向上に直結しておらず、技術レベルの評価は中程度に留まります。設計の独創性は認められるものの、実装の最適化において改善の余地が大きいです。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.3}\]同社製品のコストパフォーマンスは、市場において極めて低い水準にあります。評価は、内部のドライバー構成等によらず、純粋に「同等以上の測定性能(周波数特性、歪率など)を持つ世界で最も安価な製品」との価格比較で行います。例えば、最上位モデルのKaguya (1,399 USD) は、より優れた測定性能(良好な周波数特性と遥かに低い歪率)を持つTruthear NOVA (149 USD) と比較できます。この場合、CPは 149 ÷ 1,399 = 0.11 となり、スコアは0.1です。Yume (169 USD) も、より安価で高性能なMoondrop Aria (79 USD) との比較でCPは0.5程度です。全製品ラインナップにおいて、より優れた測定性能を持つ代替品が数分の一の価格で入手可能なため、コストパフォーマンスは著しく低いと評価せざるを得ません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.5}\]See Audioは2020年頃設立の新興企業であり、長期的な信頼性データが不足しています。製品の故障率やMTBF値に関する公開情報は限定的で、保証期間・修理体制についても業界標準レベルと推定されます。新興メーカーとして実績が少なく、今後のサポート継続性に不確実性があります。ファームウェア更新が必要な製品カテゴリではないため、この点での評価は該当しません。現時点では業界平均水準のサポートを提供していると判断されますが、長期的な信頼性については今後の実績蓄積を待つ必要があります。企業規模と歴史を考慮すると、保守的な評価が適切です。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.5}\]同社はHarman目標曲線に基づく科学的チューニングアプローチを採用しており、この点は合理的です。しかし、全体的な設計思想において技術的性能よりも主観的な「音楽性」を優先する傾向があり、測定可能な性能改善への取り組みが不十分です。特に、致命的なレベルであるTHD+N値を新モデルにおいても改善せず、むしろ高価格化が進行している状況は非合理的です。エレクトロスタティックドライバー等の先進技術を採用しながら、それが歪率の低減といった可聴な音質改善に結びついていない点で、設計思想の合理性に疑問があります。測定データに基づく透明レベルの音質達成よりも、マーケティング的な差別化を重視している傾向が見られます。
アドバイス
See Audio製品の購入を検討する場合、同社の強みである優秀なチューニング技術と、歪率など技術的性能面での深刻な課題を十分に理解する必要があります。音質の好みが周波数特性に強く依存し、解像度やディテールの再現性を重視しない場合には選択肢となり得ますが、同価格帯でより総合的に優れた代替品が多数存在することを認識すべきです。特にKaguyaのような上位モデルは、測定性能で遥かに優れる製品が10分の1程度の価格で入手可能であり、コストパフォーマンスの観点からは推奨できません。See Audio製品を選択するのは、その特有のチューニングに、性能差と価格差を埋めるだけの価値を見出せる場合に限定することが賢明です。
(2025.8.2)