Shanling

総合評価
2.4
科学的有効性
0.2
技術レベル
0.7
コストパフォーマンス
0.6
信頼性・サポート
0.8
設計思想の合理性
0.1

優れた測定性能を誇る先進的な製品群と、真空管やR2R DACといった意図的に音を変化させるレトロな技術を用いた製品群が混在する、評価が二分されるメーカー。最先端のΔΣ DAC搭載機では業界トップクラスの性能を達成する高い技術力を持ちながら、一部の製品では原音忠実再生という科学的合理性から逸脱し、主観的な『音楽性』を優先する傾向が見られます。購入者は、自身がどちらの設計思想を支持するかを明確に意識する必要があります。

中国 オーディオ DAP DAC ポータブル R2R 真空管

概要

Shanling(シャンリン)は、1988年に設立された中国の老舗オーディオメーカーです。当初はハイエンドのステレオ製品で名を馳せましたが、近年はポータブルオーディオプレーヤー(DAP)やDACの分野で大きな存在感を示しています。先進的なAKMやESSのΔΣ DACチップを搭載し、優れた測定性能を誇る製品をリリースする一方で、真空管やR2RラダーDACといった、意図的に音響特性を変化させる技術を用いた製品も展開しており、その設計思想は一貫しているとは言えません。この二面性が、Shanlingというブランドの評価を複雑なものにしています。

科学的有効性

\[\Large \text{0.2}\]

Shanlingの評価を著しく下げているのが、この項目です。同社は、最新のΔΣ DACを搭載しS/N比やTHD+Nで優れた測定値を示す製品を開発する高い技術力を持ちながら、一方で真空管(例: M8T DAP)や、性能の低い抵抗を使用したR2R DAC(例: EH2 DAC/AMP)を搭載した製品を積極的に市場に投入しています。これらの技術は、意図的に高次の倍音歪みを付加することで、主観的に「暖かく」「スムーズ」と感じる音を作り出すものであり、レビューポリシーの根幹である「マスター音源への忠実度」とは正反対の方向性です。科学的根拠に基づいた原音再生の観点からは、極めて低く評価せざるを得ません。

技術レベル

\[\Large \text{0.7}\]

M9 PlusなどのDAPで採用されているAKMの最新フラッグシップDAC「AK4499EX」を搭載した製品群は、L7 Audio Labなどの第三者機関による測定で、実際に業界最高水準の性能(SINAD 120dB超)を達成しており、同社の基礎的な技術力の高さは疑いようがありません。しかし、前述の通り、一部製品ではあえて測定性能で劣るR2R DACや真空管といった時代遅れの技術を採用しています。これらの技術は、現代のデジタル技術と比較して、ノイズ、歪み、周波数特性の平坦性といったあらゆる客観的指標で劣ります。高い技術力を持ちながら、それを全ての製品で最大限に活かしているとは言えず、評価を下げました。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.6}\]

コストパフォーマンスの評価も二分されます。M3 UltraのようなΔΣ DAC搭載DAPは、約8万円という価格で、競合製品と同等以上の優れた測定性能と機能を提供しており、非常に高いコストパフォーマンスを誇ります。しかし、真空管やR2R DACを搭載したモデルは、同価格帯でより高い忠実度を持つ最先端のΔΣ DAC搭載製品(例えばToppingやS.M.S.L.の製品)と比較した場合、純粋な性能対価格の観点では著しく劣ります。企業全体のポートフォリオとして見た場合、これらの低パフォーマンス製品の存在が全体の評価を引き下げています。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.8}\]

Shanlingは30年以上の歴史を持つ老舗であり、その製品の多くは堅牢な金属筐体を採用するなど、ビルドクオリティは概ね良好です。ファームウェアのアップデートも比較的継続的に提供されており、長期的なサポート体制にも一定の評価ができます。ただし、ポータブル製品が多いため、バッテリーの寿命や物理的な消耗に関する問題は避けられません。保証期間は標準的であり、特に優れているわけでも劣っているわけでもないため、業界平均水準の評価とします。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.1}\]

レビューポリシーでは、「音質改善」のための仕様が実測的・可聴的根拠を持つことを「合理性」の基準としています。その観点から言えば、Shanlingの設計思想は極めて非合理的と言わざるを得ません。真空管やR2R DACがもたらす「音の変化」は、測定性能の劣化(=歪みの増加)によって生じるものであり、原音をより忠実に再現するための合理的なアプローチではありません。これは、音楽を聴く行為を、感性や情緒が支配する主観的な体験と捉える思想ですが、本レビューの科学的・合理的な評価軸とは全く相容れません。「原音忠実再生」という目標を放棄し、意図的に音を変化させるという思想は、最も低い評価に値します。

アドバイス

Shanling製品の購入を検討する際は、まず自分がオーディオに何を求めているのかを自問する必要があります。もしあなたが、測定データに裏付けられた、制作者の意図した音を可能な限り忠実に再現したいと考える「ハイフィデリティ(Hi-Fi)」の信奉者であれば、同社のM3 UltraやM9 Plusといった最新のΔΣ DACを搭載したモデルを選ぶべきです。これらの製品は、価格に対して優れた客観的性能を提供します。

一方で、もしあなたが、オーディオを一種の「楽器」のように捉え、真空管や特定のDACアーキテクチャがもたらす独特の「響き」や「音色」を楽しむことを目的とするのであれば、同社の真空管搭載モデルやR2R DAC搭載モデルが選択肢に入るかもしれません。ただし、その場合、あなたは「高忠実度」ではなく、意図的に付加された「心地よい歪み」にお金を払っているということを明確に認識する必要があります。

(2024.7.13)