Spendor
英国の老舗スピーカーメーカーSpendorは、BBC時代から培った音響工学の知識を基盤とし、自社設計ドライバーと英国内製造にこだわる伝統的企業です。測定性能は良好ながら最新技術への対応は限定的で、コストパフォーマンスは同等以上の機能を持つ競合製品と比較して劣位にあります。
概要
Spendorは1969年にBBCの音響エンジニアであったスペンサー・ヒューズと、その妻ドロシーによって設立された英国のスピーカーメーカーです。社名は創設者夫妻の名前に由来しており、BBCでの音響工学の知識を活かしたBC1スピーカーからその歴史をスタートさせました。2000年からはAudiolabの共同創設者であるフィリップ・スイフトが経営を引き継いでいます。A-Line、D-Line、Classicの3つの製品ラインを展開し、全製品を英国サセックス州の自社工場で設計・製造しています。BBC時代から続く伝統的な音響設計思想を持ち、LS3/5aやBC1などの名機を手がけた歴史があります。
科学的有効性
\[\Large \text{0.7}\]Spendorのスピーカーは、業界標準を満たす良好な測定性能を示し、特にフラットな周波数特性は評価されています。現行モデルのA1.2は60Hz〜26kHzの周波数特性と83dBの感度(公称値)を実現しており、客観的な性能は確保されています。しかし、いくつかの測定データでは、特定の周波数帯域における指向性の乱れや、エンクロージャーの共振が指摘されており、最新の競合製品に見られるような高度なシミュレーションと素材技術を駆使したレベルには達していません。伝統的な設計を重視するあまり、音響的な完全性においてわずかな妥協が見られます。
技術レベル
\[\Large \text{0.6}\]Spendorの技術レベルは、伝統的な音響設計に重点を置いた保守的なものと評価されます。自社開発のEP77ポリマーコーンや、LPZ(Linear Pressure Zone)ツイーター技術など、独自の技術は有していますが、アクティブスピーカーやDSP(デジタル信号処理)技術、先進的な素材(ベリリウムやダイヤモンドなど)の導入には消極的です。近年のスピーカー設計で主流となっている音響シミュレーションやFEM(有限要素法)解析の活用も限定的です。競合他社が新技術を積極的に採用し性能を向上させる中で、Spendorの革新性は平均を下回ると言えます。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.3}\]Spendor A1.2(1,850ドル)に対し、より安価で同等以上の性能を持つWharfedale Diamond 12.2(499ドル)が存在します。計算式は499ドル ÷ 1,850ドル = 0.27となり、四捨五入で0.3のスコアとなります。Wharfedale Diamond 12.2は150mmウーファーと25mmソフトドームツイーターを搭載し、50Hz〜20kHzの周波数特性と88dBの感度を実現しています。これは、より低い低音再生能力と優れた能率を意味し、Spendor A1.2の基本性能を上回りながら約73%安価で提供しています。KEF LS50 Meta(1,500ドル)も、より先進的な技術を持つ選択肢として存在し、Spendorの価格設定は性能と比較して著しく割高と言えます。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.6}\]Spendorは50年以上の歴史を持つ老舗メーカーとして、一定の信頼性を確保しています。英国内での一貫製造により品質管理が行われており、Classicシリーズなどは長期間にわたって継続生産されています。保証期間は業界標準レベルで、英国および主要国での販売ネットワークを維持しています。ただし、新興メーカーと比較して故障率データやMTBF(平均故障間隔)値の公開は限定的です。ファームウェア更新が必要な製品カテゴリではないため、最新のサポート体制評価には馴染まない側面もありますが、情報公開の透明性という点では改善の余地があります。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.5}\]Spendorの設計思想は、BBCモニターの伝統を継承し、特定の「音色」を重視する傾向にあります。これは、現代の多くの高性能スピーカーが目指す「原音に対する透明性」とは方向性が異なります。アクティブスピーカーやDSP技術の導入に消極的で、伝統的なパッシブスピーカーの枠組みに固執しています。優れた測定性能を持つ競合製品が同価格帯に存在するにもかかわらず、コストパフォーマンスを度外視してでも伝統的なアプローチを維持する姿勢は、科学的合理性の観点からは疑問が残ります。現代の技術革新への対応が限定的であるため、設計思想の合理性は平均的な評価となります。
アドバイス
伝統的な「ブリティッシュ・サウンド」を求めるユーザーには適していますが、コストパフォーマンスと最新技術を重視する場合は、他の選択肢を強く推奨します。より安価で性能的に優れたWharfedale Diamond 12.2(499ドル)、技術的により先進的なKEF LS50 Meta(1,500ドル)、プロ向けに近い透明性を備えたATC SCM11 v2(2,399ドル)などが有力な代替品となります。特に測定値を重視するユーザーであれば、Spendorよりもコストパフォーマンスに優れた競合製品を検討すべきです。ただし、BBC由来の伝統的な音作りと英国製である点に価値を見出すユーザーにとって、Classicシリーズは最も合理的な選択肢となり得ます。現在のSpendorは、技術革新よりもブランドの伝統を優先する保守的なメーカーと位置づけられます。
(2025.8.1)