Tannoy
英国・スコットランドの伝統スピーカーメーカー。98年の歴史を持つが2017年工場関閉で規模縮小。Dual Concentric技術は独自性あるが現代測定基準でCP低下。
概要
Tannoy は1926年英国ロンドンでヨークシャー出身エンジニアGuy Fountain氏(1898-1977)により創業された伝統スピーカーメーカー。社名はTantalum Alloyの略で、電解整流器開発が起源。1948年に同軸ドライバー「Dual Concentric」を発明し、これが同社の象徴的技術となった。第二次大戦中にはバッキンガム宮殿の公報システムに採用され、「Tannoy」は英国でPAシステムの代名詞となった。1976年スコットランドCoatbridgeに移転。現在Music Tribe傘下だが、2017年にCoatbridge工場関閉の危機があり、70名の雇用削減が実施された。高級Prestigeシリーズのスコットランド手作り製造は継続しているが、企業規模は大幅に縮小。
科学的有効性
\[\Large \text{0.6}\]Turnberry GR(34Hz-25kHz -6dB、感度93dB、インピーダンス8Ω)は周波数特性・感度共に標準的性能を示すが、透明レベルには達しない。Dual Concentric 10インチドライバーによる同軸設計は点音源特性により理論的優位性があるものの、1.3kHzクロスオーバーは現代基準では高い。高域調整機能(±3dB@1.3-25kHz)は測定上の調整機能として有効だが、基本特性の不完全性を補正する設計思想。感度93dBは高効率だが、詳細なTHD・歪み特性データは非公開で、科学的検証が困難。
技術レベル
\[\Large \text{0.8}\]Dual Concentric技術は1948年発明の独自技術で、同軸配置による点音源特性と位相一致は理論的に優秀。Tulip WaveGuide技術、Deep Cryogenic Treatment等の先進技術も採用。手作りクロスオーバーでカスタムキャパシタ、低損失ラミネートコアインダクタ等の高品質部品を使用。50mm エッジワウンド・ボイスコイル等の設計も技術的に適切。100年近い技術蓄積により、アナログ時代の音響設計では業界最高水準。しかし現代のデジタル信号処理、アクティブクロスオーバー技術等への対応は限定的で、技術革新が停滞している。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.3}\]Turnberry GR(5,000-9,000USD、34Hz-25kHz -6dB、感度93dB)に対し、KEF R3 Meta(2,200USD、52Hz-28kHz ±3dB、感度87dB)が周波数特性精度で上回りCP = 2,200/7,000 ≈ 0.31。より深刻なのは、Wharfedale Linton Heritage(1,200USD、40Hz-20kHz、感度90dB)が低域・感度で同等以上でCP = 1,200/7,000 ≈ 0.17と極端に劣位。TannoyのDual Concentric技術は独自性があるが、測定性能での優位性は価格差(5-7倍)を正当化するレベルに達しない。特に現代のアクティブスピーカー(Genelec等)との比較では絶対的性能差が明確。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.9}\]1926年創業で98年の歴史を持つが、2017年のCoatbridge工場関閉危機で企業規模は大幅に縮小した。Dual Concentric技術の70年以上の実績も安定性の証左。スコットランド工場での手作り製造により、品質管理は極めて厳格。保証期間は5年が標準で業界最高水準。英国ブランドとしての伝統とMusic Tribe傘下の安定性により、長期サポートも確実。製品の長期使用実績も優秀で、30年以上使用されている個体も多数存在。ただし部品供給の継続性は高級機のため問題なく、修理体制も充実している。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.9}\]Dual Concentric技術による点音源再生は音響学的に極めて合理的で、位相一致・時間軸合致の観点から理論的に正しい設計思想。手作りクロスオーバー、高品質部品の採用等、測定性能より音楽再生を重視した設計も一定の合理性がある。Deep Cryogenic Treatment等の微細技術も科学的根拠がある。スコットランド工場での手作り製造も品質管理の観点で合理的。唯一の問題は現代のデジタル音響技術、アクティブ制御技術を積極的に採用しない保守的姿勢で、技術革新への対応が不十分。伝統技術への過度な依存により、現代の測定基準での競争力低下を招いている。
アドバイス
Tannoy製品は伝統的英国サウンドを重視するユーザーに特化した選択肢。Turnberry GR(5,000-9,000USD)はDual Concentric技術により独特の音響特性を持ち、スコットランド手作り製造の品質は確実。しかし同価格帯での測定性能比較では、KEF R3 Meta(2,200USD)、Wharfedale Linton(1,200USD)が大幅に優位。純粋な測定性能・CP重視なら他社製品が推奨される。Tannoyの価値は98年の伝統、Dual Concentric独自技術、スコットランド手作り製造にあり、これらのブランド価値・希少性を評価するユーザーのみに推奨。現代的な測定性能は期待せず、伝統的音響設計の魅力を理解できるユーザー向け。
(2025.7.8)