Thorens

総合評価
1.7
科学的有効性
0.4
技術レベル
0.3
コストパフォーマンス
0.1
信頼性・サポート
0.7
設計思想の合理性
0.2

精密な機械工学を、根本的に時代遅れなオーディオフォーマットに注ぎ込むブランド。アナログレコードという再生方式は、性能測定において標準的なデジタル音声にあらゆる面で劣るため、科学的忠実度の観点からは極めて低い評価となる。設計思想は高性能化の追求において非合理的であり、コストパフォーマンスは壊滅的。正確な音響再生を求めるのではなく、ノスタルジアや機械趣味を目的とするユーザー向けの製品である。

ドイツ スイス オーディオ レコードプレーヤー ターンテーブル 老舗

概要

Thorensは1883年にスイスで創業した、世界で最も歴史あるオーディオブランドの一つです。オルゴールの製造から始まり、1957年の「TD 124」や、その後のフローティング・サスペンション(ばねで本体機構を浮かせる方式)を採用した「TD 150」「TD 160」シリーズでレコードプレーヤーの歴史に不朽の名を刻みました。2018年にドイツの経営陣の下で再建され、伝統的な機械工学の精密さと現代的な改良を融合させた製品を展開しています。

科学的有効性

\[\Large \text{0.4}\]

Thorensが製造するレコードプレーヤーは、針で物理的な溝をなぞるという19世紀以来の原理に基づいています。この再生方式は、科学的忠実度という絶対的な観点からは、根本的な限界を抱えています。レコードの材質やホコリによるノイズ、針が溝をトレースする際の物理的な歪みは原理的に不可避です。その結果、最良の条件下でもS/N比は-70dB〜-80dB程度に留まり、ワウ・フラッター(回転ムラ)も皆無にはできません。これは、ごく安価なデジタルオーディオ機器が容易に達成するS/N比-110dB以上、ワウ・フラッターゼロという性能とは比較になりません。マスター音源への忠実度という基準において、アナログという媒体を選択した時点で科学的有効性は著しく制限されます。

技術レベル

\[\Large \text{0.3}\]

Thorensの技術は、レコードプレーヤーの精密機械加工に特化しています。プラッターの工作精度やサスペンションの設計には高い職人技術が見られますが、その努力は根本的に時代遅れで低性能な技術に向けられています。「マスター音源への忠実度」という絶対的な視点から見れば、プラスチックの溝を針でなぞる技術は、現代のデジタル信号処理技術と比較して原始的と言わざるを得ません。いかに精巧に作られた最新式の馬車であっても、基本的な性能で安価な自動車に敵わないのと同じです。高いレベルの機械工作技術が投入されている点は認めますが、その技術が立脚する土台そのものが現代のハイフィデリティ基準に全く到達していないため、技術レベルの評価は低くなります。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.1}\]

「マスター音源への忠実度」という唯一の評価基準に基づくと、Thorens製品のコストパフォーマンスは壊滅的です。同社の中核モデル「Thorens TD 1500」の実売価格が約300,000円であるのに対し、そのS/N比や歪み率といった性能は、アナログプレーヤーとしては優秀でも、絶対的な忠実度においてはるかに安価なデジタル機器に遠く及びません。 具体的には、S/N比115dBを超え、歪み率も0.0002%以下という圧倒的な性能を持つDAC「Topping D10s」は、わずか11,000円で入手可能です。性能で数桁劣る製品が、価格では約27倍も高価という事実に基づき、CP = 11,000円 ÷ 300,000円 ≒ 0.037という計算になります。この定義に従い、スコアは0.1と評価します。Thorensの価値は、性能以外の趣味性やノスタルジアにあり、純粋な再生忠実度のコスト効率で測るべき製品ではありません。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.7}\]

Thorens製品は、精密機械として堅牢に作られており、特に往年の名機は長年の使用に耐える個体が多いことで知られています。2018年にドイツで設立された新会社Thorens GmbHは、公式サイト上で保証とサービスに関する指針を提示しており、各国の正規代理店を通じてサポートを提供しています。機械製品であるため、デジタル機器とは異なるメンテナンスが必要ですが、ブランドが安定していること、また歴史が長くユーザーコミュニティが成熟していることから、信頼性やサポート体制は一定の水準にあると評価できます。この項目は音響性能とは直接関係しないため、製品の作りと企業の体制を評価しました。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.2}\]

「マスター音源への忠実度を最大化する」という目的に照らし合わせると、Thorensの設計思想は根本的に非合理的です。ノイズ、歪み、機械的不安定性という深刻な制約を原理的に抱える再生フォーマット(アナログレコード)に、あえてリソースを投入するという選択自体が、性能追求の観点からは全く合理的ではありません。 Thorensが開発したサスペンション機構などは、レコード再生に伴う振動という「自ら招いた問題」に対する巧妙な解決策ではあります。しかしそれは、わざと穴を開けた船のために非常に高性能な排水ポンプを設計するようなもので、本末転倒です。真に合理的な設計思想であれば、まず性能的に優れたデジタルフォーマットを選択するでしょう。したがって、その設計思想は科学的・合理的な立場からは極めて低い評価となります。

アドバイス

結論として、Thorensはハイフィデリティ(高忠実度再生)製品ではありません。これはノスタルジアと機械趣味に根差した嗜好品です。もしあなたが、マスター音源に記録された音を可能な限り正確に聴きたいのであれば、選択肢に入れるべきではありません。数万円のDACとPCやストリーマーの組み合わせが、あらゆる測定性能において、Thorensのプレーヤーを圧倒的な差で上回ります。

Thorens製品の購入を検討するのは、レコードという物理メディアを操作する儀式的な楽しみや、精巧な機械そのものへの愛着に価値を見出し、その対価として著しく低い音響性能と高いコストを許容できる場合に限られます。

(2025.07.05)