TRI
TRIはKBEARの高級ブランドとして、マルチドライバー構成のIEMを手がける新興メーカー。ハイブリッド技術を活用するも、測定性能と透明度において課題が残る。
概要
TRI Audioは、KBEARの高級ライン子会社として設立された新興IEMメーカーです。I3、I3 Pro、I3 MK3、iOne、Starlightなど、マルチドライバー構成を特徴とするハイブリッドIEMを手がけています。プラナー磁気ドライバー、バランスドアーマチュア、ダイナミックドライバーを組み合わせたトライブリッド構成や、ベリリウム振膜、Sonion製BAドライバーなど先進的な技術を採用し、199USD(2025年7月現在のレートで約30,000円)からの価格帯でプレミアム機能を提供しています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.6}\]TRIの製品は、客観的な測定データにおいて透明レベルからの乖離が見られます。多くのモデルで周波数特性に意図的な着色が加えられており、特に4kHz以降に強い下降傾斜や特定の帯域の強調が見られます。これはマスター音源の忠実な再現を目指す上で大きな課題です。THD(高調波歪率)の公表値は少ないものの、一部レビューでは「トランジェントが遅く、アタックが緩やか」と指摘されており、歪みによる明瞭度の低下を示唆します。可聴域での改善効果は限定的で、測定結果基準表の透明レベル(20Hz-20kHz ±0.5dB)からは大きく逸脱しており、科学的有効性は高いとは言えません。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]TRIのトライブリッド構成は、技術的に興味深いアプローチです。10mmベリリウム振膜DD、Sonion製BA、10mmプラナー磁気ドライバーといった異なる特性のドライバーを組み合わせる設計思想は、各帯域への専門化を図るものです。CNC加工による7050航空グレードアルミニウム合金筐体や、3ウェイクロスオーバー設計など、製造技術にも一定のレベルが見られます。ただし、これらの高度な技術投入が、必ずしも測定性能の向上に直結していない点が最大の課題です。業界平均を上回る技術レベルは認められるものの、革新性は限定的です。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.2}\]TRIの主力製品であるI3 MK3(219 USD)は、その測定性能を考慮するとコストパフォーマンスが高いとは言えません。オーディオの忠実再生という観点では、より安価で優れた測定性能を持つ製品が存在します。例えば、SIMGOT EW200(約40 USD)は、単一のダイナミックドライバー構成でありながら、TRI製品よりはるかにフラットな周波数特性と低い歪率を実現しています。計算式:40 USD ÷ 219 USD = 0.182…となり、四捨五入してスコアは0.2となります。ドライバー構成の複雑さではなく、最終的な音響性能で評価すべきであり、TRIの価格設定は合理的とは言えません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.5}\]TRIは新興ブランドであり、長期的な製品信頼性に関する客観的データが不足しています。母体であるKBEARの供給網を活用できる点は安定供給の面でプラスですが、具体的な故障率やMTBF(平均故障間隔)といった指標は公表されていません。保証期間やアフターサポート体制についても情報が限定的です。IEM製品として標準的な保証を提供していると推測されますが、確証データがないため、評価は業界平均水準に留まります。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.5}\]TRIの設計思想は「滑らかさ」や「快適な聴感」といった主観的な音質を重視する傾向があり、これは測定可能な忠実度を追求する科学的なHigh Fidelityのアプローチとは異なります。トライブリッド構成そのものは技術的に興味深いものの、各ドライバーの性能を最大限に引き出し、協調させることで測定性能を向上させるという明確な目標が見えにくいのが実情です。「滑らかで攻撃的でない」音作りは、マスター音源への忠実度よりも特定の聴感を優先したものであり、その設計思想の合理性は限定的と評価せざるを得ません。
アドバイス
TRIは、複数のドライバーを搭載したIEMの技術的側面に興味があり、かつ手頃な価格でその構成を体験したいユーザーには選択肢となり得ます。しかし、測定性能に裏付けられた音源の忠実な再現性を重視するユーザーには推奨できません。購入を検討する場合、まずはTRI製品よりもはるかに安価で、かつ測定性能で優れるSIMGOT EW200(約40 USD)のような高性能な単一ダイナミックドライバー搭載機を試すことを強く推奨します。TRIの製品は「音楽を楽しく聴くための一つの味付け」と割り切れる層には適していますが、客観的な音質向上を期待して購入するのは避けるべきです。
(2025.7.28)