TRN
中国の新興IEMメーカー。低価格でハイブリッド構成のIEMを提供し、コストパフォーマンスは良好。測定性能は業界平均レベルだが、科学的忠実度よりも娯楽性を重視した音響特性を採用している。
概要
TRN(Dongguan Zuodu Acoustic Technology Co., Ltd.)は2017年に設立された中国のオーディオメーカーです。主にIn-Ear Monitor(IEM)の製造を手がけており、低価格でハイブリッドドライバー構成の製品を市場に投入しています。同社は「オーディオ愛好家が開発に関与」することを謳い、BA(バランスド・アーマチュア)ドライバーとダイナミックドライバーを組み合わせた製品ラインナップを展開しています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.4}\]TRNの製品群における測定性能は業界平均レベルです。代表的な製品であるTRN V90の周波数特性はV字型の音響設計を採用しており、低域と高域にブーストが見られますが、これは意図的なチューニングであり致命的な問題ではありません。第三者機関による詳細なTHD測定データは限定的ですが、一般的な使用において問題となるレベルの歪率報告はありません。S/N比は概ね100dB程度を確保しており、基本的な性能要件は満たしています。ただし、マスター音源への完全な忠実度という観点では、意図的な音響特性の調整により中立性からは逸脱しています。可聴域での測定により確認された音質改善効果は限定的で、科学的有効性は標準レベルと判断されます。
技術レベル
\[\Large \text{0.4}\]TRNはハイブリッドドライバー構成を積極的に採用していますが、技術的な実装レベルは業界平均を下回ります。多ドライバー構成を謳いながらも、クロスオーバー設計の最適化が不十分で、各ドライバーの特性を活かしきれていません。BA15やBAX Proなどの上位モデルでは15個のBAドライバーを搭載していますが、これは技術的必然性よりもマーケティング的な要素が強く、実際の音質向上への寄与は疑問視されます。プラナー磁気ドライバーの採用など先進的な要素も見られますが、基本的な設計思想や実装技術において既製品の組み合わせ的な側面が強く、独自性や合理性に欠けています。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.9}\]TRN製品の価格帯は20-80 USDと低価格に設定されており、同等機能を持つ競合製品との比較では優位性があります。代表的な製品であるTRN V90(約45 USD)と同等のハイブリッド構成(4BA+1DD)を持つ競合製品として、KZ ZS10 Pro(約40 USD)が存在します。計算式:40 USD ÷ 45 USD = 0.89となり、コストパフォーマンススコアは0.9となります。TRNは低価格でハイブリッドドライバー構成を提供しており、同等の5ドライバー(4BA+1DD)構成の製品と比較しても価格競争力があります。ただし、測定性能面では改善の余地があり、より高い評価を得るためには音質面での向上が必要です。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.2}\]2017年設立の新興メーカーであり、長期的な信頼性実績が不足しています。保証期間は標準的な1年間を提供していますが、中国本土以外でのサポート体制は限定的です。製品の品質にはバラつきがあり、一部のユーザーレビューでは初期不良や耐久性の問題が報告されています。ファームウェア更新が必要な製品カテゴリには該当しませんが、ハードウェアの品質管理において業界水準を下回る事例が散見されます。修理体制も不明確で、アフターサポートの質は業界最低水準に近いと判断されます。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.3}\]TRNの設計思想には非合理的な要素が多数存在します。「低域の興奮性を意図的に強化」という方針は、マスター音源への忠実度という科学的観点から逸脱しています。多ドライバー構成を採用しながらも、測定結果基準表の透明レベル達成には寄与していません。特に、15個のBAドライバーを搭載したモデルなどは、技術的必然性よりもマーケティング的な要素が強く、合理性に欠けます。新モデルにおいても問題レベルの測定結果の改善が見られず、むしろ意図的にV字型の周波数特性を採用するなど、科学的音質改善から逸脱した方向性が顕著です。汎用機器(スマートフォン+外付けDAC)と比較しても、専用機器としての優位性は限定的で、設計思想の合理性は低いと評価されます。
アドバイス
TRN製品の購入を検討している方には、同等のハイブリッド構成を持つ代替製品との比較検討をお勧めします。特にKZ ZS10 Pro、CCA C10等は、同じ4BA+1DDのハイブリッド構成でより優れた測定性能を示しており、マスター音源への忠実度において優位性があります。もしTRN製品を選択される場合は、低域過多の音質特性を理解した上で、主に娯楽用途での使用に留めることを推奨します。オーディオファイル用途や正確な音楽再生を求める場合には、測定性能がより優秀な製品を選択することが重要です。また、サポート体制の制約を考慮し、長期使用には適さない可能性があることを認識しておく必要があります。
(2025.7.24)