ADAM Audio T8V

参考価格: ? 44850
総合評価
3.5
科学的有効性
0.7
技術レベル
0.6
コストパフォーマンス
0.8
信頼性・サポート
0.7
設計思想の合理性
0.7

ADAM Audio T8Vは8インチウーファーとU-ARTリボンツイーターを搭載し、33Hz~25kHzの再生帯域と118dBの最大出力を実現。299ドルという価格でプロレベルの性能を提供する。

概要

ADAM Audio T8Vは、ドイツのスタジオモニター専門メーカーであるADAM Audioが2020年にリリースした8インチアクティブニアフィールドモニターです。同社の上位機種で使用されているU-ARTアクセラレーテッドリボンツイーターを299 USDという手頃な価格帯で提供し、プロフェッショナルレベルの音響性能をホームスタジオやセミプロ環境に普及させることを目的として開発されました。8インチポリプロピレンウーファーと組み合わせることで、33Hz~25kHzの広帯域再生と最大SPL 118dB(ペア、1m)の高出力を実現しています。

科学的有効性

\[\Large \text{0.7}\]

周波数特性は33Hz~25kHz(-6dB)と公称され、8インチモニターとして良好な低域延伸を示します。Audio Science Review(ASR)にはT8Vの実測レビューが公開されており、低域から中高域にかけて概ね良好な直線性が確認されています[1]。一方で、物理的制約からスピーカーとしての高調波歪は可聴帯域で完全にゼロにはならず、透明レベルの基準を満たすものではありません。最大SPLはメーカー公称で118dB(ペア、1m)で、クロスオーバー周波数は2.6kHzです。総合すると、測定に基づく再現性は堅実で、価格帯に対して妥当と評価します。

技術レベル

\[\Large \text{0.6}\]

U-ARTアクセラレーテッドリボンツイーターは、従来のドームツイーターと比較して軽量(0.17g)かつ高い振動子面積(4平方インチ)を持ち、4:1の速度変換比により高域の応答性と解像度を向上させています。Class-Dアンプ構成(ウーファー70W、ツイーター20W)とHPSウェーブガイドの組み合わせにより、効率的な電力配分と指向性制御を実現しています。ただし、DSP処理やルームコレクション機能は搭載されておらず、現代的なデジタル信号処理技術の活用は限定的です。設計自体は合理的ですが、業界最高レベルの技術革新性は見られません。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.8}\]

市場価格は299 USD(日本国内の実勢価格目安: 約42,900円)に対し、同等以上の機能・測定性能を持つ最安の競合としてKali Audio LP-8 V2(約249 USD、日本国内目安: 約37,000円)が挙げられます。LP-8 V2は同じ8インチクラスのアクティブニアフィールドモニターで、第三者の公開測定でも直線性と低歪が確認されています[2]。したがって、コストパフォーマンスはCP = 249 USD ÷ 299 USD = 0.83 → 0.8(四捨五入)となります。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.7}\]

ADAM Audioは1999年設立のスタジオモニター専門メーカーとして、業界での実績と信頼性を確立しています。T8Vは通常2年間の保証に加え、製品登録により5年間へ延長可能です。世界中の正規販売店ネットワークを通じたサポート体制が整備されています。ファームウェア更新を要しないアナログ設計で長期安定性が期待できますが、価格帯相応の品質ばらつきリスクは一定程度残ります。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.7}\]

U-ARTリボンツイーターの採用は、測定可能な高域性能の向上をもたらす合理的な技術選択です。8インチウーファーによる低域延伸(33Hz)は、ホームスタジオでの音楽制作において実用的な意味を持ちます。Class-Dアンプの使用は効率性と発熱抑制の観点から適切な選択です。一方で、DSPによる音響補正やルーム適応機能の未搭載は、現代的なスタジオモニターとしてはやや保守的なアプローチと言えます。全体として、科学的根拠に基づく設計が行われており、オカルト的要素は排除されています。

アドバイス

T8Vは299ドルの価格帯で本格的なリボンツイーターを体験できる数少ない選択肢であり、特に高域の解像度とディテールを重視するユーザーに適しています。8インチウーファーによる十分な低域出力は、エレクトロニック音楽やヒップホップなどのベースヘビーな楽曲制作にも対応可能です。ただし、4.6kHz周辺のノッチや2kHz付近のディップは、ボーカルの定位や楽器バランスの判断に影響する可能性があるため、複数のモニターでの確認を推奨します。予算重視でありながら音響性能を妥協したくないホームスタジオユーザーには、特にコストパフォーマンスの高い選択肢となるでしょう。

参考情報

[1] Audio Science Review, “Adam T8V Studio Monitor Review”, https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/adam-t8v-studio-monitor-review.17118/, 2020年5月 [2] Erin’s Audio Corner, “Kali Audio LP-8 V2 Review/Measurements”, https://www.erinsaudiocorner.com/loudspeakers/kali_lp-8_v2/

(2025.8.9)