Allen & Heath WZ4 14:4:2

総合評価
3.5
科学的有効性
0.9
技術レベル
0.7
コストパフォーマンス
0.3
信頼性・サポート
0.8
設計思想の合理性
0.8

透明レベルの優れた測定性能を持つプロフェッショナルアナログミキサーだが、デジタルミキサーと比較しコストパフォーマンスに大きな課題。

概要

Allen & Heath WZ4 14:4:2は、ライブサウンド用途に特化した14チャンネルのプロフェッショナルアナログミキサーです。FOH(Front of House)とモニター用途の両方に対応する汎用性を持ち、10系統のマイク/ライン入力と2系統のステレオチャンネルを装備しています。4つのグループバスと2つのマトリクス出力を備え、6つのオグジュアリーセンドによる柔軟なルーティングが可能です。同社のMixWizard4シリーズの一部として、プロの現場での信頼性を重視した設計が特徴です。

科学的有効性

\[\Large \text{0.9}\]

測定性能は極めて優秀です。THDは0.004%(10dBu, 1kHz)、周波数特性は20Hz~50kHzの範囲で±0.5dBと、いずれも人間の可聴域を完全に超える透明レベルを達成しています。マイクプリアンプのEIN -127dB、ミキサー全体のノイズフロア-96dBu未満、クロストーク90dB以上(1kHz)といったスペックも、音響工学的に理想的な数値を満たしており、音源に対する忠実度は最高水準です。最大出力レベルも+26dBuと十分なヘッドルームを確保しており、科学的観点から音質上のボトルネックとなる要素は見当たりません。

技術レベル

\[\Large \text{0.7}\]

設計面では4バンドEQに2つのスイープ可能なミッドバンドを搭載し、80Hz以下12dB/オクターブのハイパスフィルターを装備するなど、実用的な音響処理機能を提供しています。低ノイズマイクプリアンプとQCC(Quick Connection Console)システムによる柔軟な設置オプションは技術的に評価できます。しかし、基本的にはアナログ回路の組み合わせによる従来型の設計アプローチであり、革新的な技術要素は限定的です。USBオプションボードによるマルチチャンネル録音機能は現代的ですが、業界標準レベルの技術実装に留まっています。全体として堅実な技術レベルを維持していますが、最先端技術の投入は見られません。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.3}\]

市場価格248,000円(2025年7月時点)に対し、より高機能かつ安価なデジタルミキサーが存在します。例えばBehringer X AIR XR18は、18入力、6 AUXバス、内蔵エフェクト、USBマルチトラック録音機能を備え、価格は84,500円です。計算式:84,500円 ÷ 248,000円 = 0.34となり、本製品の約34%のコストで、機能面で圧倒的に優れた製品が入手可能です。物理フェーダーがない点は操作スタイルの違いであり、機能的な劣位ではありません。アナログの操作感に価値を見出さない限り、性能対価格比ではデジタルミキサーが圧倒的に優位であり、本製品のコストパフォーマンスは低い評価とならざるを得ません。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.8}\]

Allen & Heathは50年以上の歴史を持つイギリスの老舗メーカーで、プロ現場での信頼性に定評があります。MixWizard4シリーズは世界中のライブ会場で使用されており、堅牢な構造と長期安定性が実証されています。3年間の製品保証と世界規模のサポートネットワークを提供し、日本国内でも正規代理店を通じた修理サービスが利用可能です。製品の故障率は業界平均を下回り、適切なメンテナンスにより10年以上の使用実績を持つ個体も多数存在します。ファームウェア更新の必要がないアナログ設計のため、長期運用における互換性問題もありません。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.8}\]

FOHとモニター兼用という設計コンセプトは現場のニーズに合致しており、合理的なアプローチです。測定性能の向上に寄与する低ノイズ設計と十分なヘッドルーム確保は科学的に正しい方向性を示しています。しかし、デジタル技術の活用が限定的で、DSP処理による高度な信号処理やワイヤレスコントロールといった現代的アプローチは採用されていません。アナログ回路による透明な音質実現という方向性は合理的ですが、同価格以下のデジタルミキサーがより少ないコストで多機能・高性能を実現している現状では、アナログ専用機として存在する必然性は薄れています。設計思想は概ね合理的ですが、価格破壊的な革新性には欠けます。

アドバイス

本製品は測定性能面では最高水準であり、信頼性も高く、アナログミキサーの物理的な操作感を求めるプロフェッショナルな現場には適しています。しかし、コストパフォーマンスを重視する場合、その選択は合理的ではありません。同等以下の価格で、より多くのチャンネル、高機能な内蔵エフェクト、ワイヤレスコントロール、マルチトラック録音といった恩恵を提供するBehringer X AIR XR18などのデジタルミキサーが存在します。物理的なフェーダーやノブによる直感的な操作性に絶対的な価値を置く、または既存のアナログシステムとの統合が必須であるといった特定の理由がない限り、機能とコストの両面で優れるデジタルミキサーを優先的に検討することを強く推奨します。

(2025.7.26)