Allen & Heath Xone 96
プロフェッショナル向け6+2チャンネルアナログDJミキサー。優秀な測定性能と伝統的なXoneサウンドを継承し、その機能クラスでは優れたコストパフォーマンスを発揮
概要
Allen & Heath Xone 96は、同社の名機Xone:92の後継機として開発された6+2チャンネルのプロフェッショナルDJミキサーです。1969年創業の英国Allen & Heathが培ってきたアナログ回路設計技術と、現代的なデジタル接続性を融合させた製品として位置づけられています。デュアル32ビット/96kHzUSBオーディオインターフェイスを内蔵し、伝統的な4バンドEQとVCFフィルターを搭載。クラブやライブ会場での使用を想定した堅牢な設計が特徴です。長年にわたってプロDJ業界で評価されてきたXoneシリーズの音質的特徴を継承しつつ、現代のデジタルDJ環境に対応した設計思想を採用しています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.8}\]測定性能は非常に優秀で、透明レベルに近い数値を達成しています。全高調波歪率(THD)は0.03%と、可聴閾値を十分に下回り、透明レベル(0.01%以下)に迫る性能を示します。周波数特性は20Hz-30kHzの範囲で±0.5dBに収まっており、これは透明レベルの基準を達成しています。ダイナミックレンジは104dBを記録し、透明レベル(105dB以上)にわずかに届かないものの、問題レベル(90dB以下)を大幅に上回ります。チャンネル間クロストークは-85dBと、透明レベル(-70dB以下)を十分にクリア。マイクプリアンプの入力換算ノイズ(EIN)も-120dBと優秀です。96kHz/32ビット処理により、デジタル領域での音質劣化も最小限に抑制されています。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]カスタム設計の60mm VCAリニアフェーダーや独自のVCFフィルター回路など、Allen & Heathの技術的蓄積が活かされた設計です。96kHz/32ビットのデュアルUSBオーディオインターフェイスは現代的なデジタル接続性を提供し、TraktorやSerato等のDJソフトウェアとの統合も良好です。4バンドEQは同社の伝統的設計を継承しつつ改良が加えられています。フィルター前段で制御された歪み効果を実現するCRUNCHハーモニックディストーション機能は独自技術です。InnoFader Miniクロスフェーダーの採用により、スクラッチ用途での操作性も確保されています。ただし、技術的な革新性は業界平均水準にとどまり、他社の最新デジタル技術と比較して突出した優位性があるとは言えません。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{1.0}\]現在の日本市場価格は約330,000円です。コストパフォーマンスは、レビュー対象と同等以上の「機能」と「測定性能」を持つ世界最安製品との価格比で評価します。Xone:96の主な仕様は、6チャンネル入力、デュアルUSBオーディオインターフェイス、4バンドEQといった機能と、ダイナミックレンジ104dBに代表される高い測定性能です。市場にはより安価な6チャンネルミキサーも存在しますが、それらは測定性能(特にS/N比や歪率)において本機に大きく劣るか、デュアルUSBといった高度な機能を備えていません。その結果、本機と同等以上の機能と測定性能を両立する製品の中で、これより安価な代替品は現行市場に見当たりません。したがって、コストパフォーマンスは1.0と評価します。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.8}\]Allen & Heathは1969年創業の老舗プロオーディオメーカーとして、業界での信頼性は確立されています。Xoneシリーズは世界中のクラブで長年使用されてきた実績があり、耐久性についても定評があります。日本国内では正規代理店による3年保証が提供され、修理体制も整備されています。ファームウェアアップデートは必要に応じて提供され、長期的なサポートも期待できます。ただし、日本市場におけるシェアはPioneer DJに及ばず、緊急時の部品調達やサービス対応速度で若干の懸念が残る可能性は否定できません。製品の故障率は業界平均を下回る良好なレベルであり、プロ用途での信頼性は十分確保されています。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.8}\]アナログ回路をベースとしながらデジタルインターフェイスを統合した設計思想は、DJ用途において合理的です。測定性能の向上を目指した回路設計により、透明レベルに近い音質を実現している点は評価できます。VCFフィルターやCRUNCHディストーション機能は、単なる装飾的機能ではなく、実際の音響特性に影響を与える設計となっており、DJの表現力向上に寄与します。デュアルUSBインターフェイスの採用は、DJ交代(B2B)時の利便性を大きく高めます。一方で、デジタルエフェクトの搭載が見送られている点は、現代の多様なDJスタイルへの対応力という面で、機能の多様性や将来的な拡張性に制約をもたらす可能性があります。
アドバイス
Allen & Heath Xone 96は、音質を最優先するプロフェッショナルDJにとって極めて優れた選択肢です。アナログミキサー特有の温かみと、現代的なオーディオインターフェイスに求められる正確な音響再現性を両立させたい場合に最適です。特に、Xoneシリーズ伝統のVCFフィルターのサウンドや、音楽的な4バンドEQを重視するDJには強く推奨できます。コストパフォーマンス評価が示す通り、6チャンネル構成のプロフェッショナルミキサーとしては価格の妥当性が高く、その価値は十分にあります。ただし、自身のワークフローで本当に6チャンネルが必要か、また内蔵エフェクトが不要かは事前に検討すべきです。もし4チャンネルで十分な場合は、より安価な他社製品も視野に入ります。
(2025.7.26)