Audio-Technica AT-SB727
1980年代の名機を現代に蘇らせたポータブルターンテーブル。Bluetooth接続と内蔵バッテリーによる携帯性は魅力的だが、音質面では妥協が多い。2万円という価格に対し、同価格帯の据え置き型ターンテーブルと比較すると性能は劣る。ノスタルジーと利便性を重視するなら選択肢になるが、純粋な音質を求める用途には不向き。
概要
Audio-Technica AT-SB727は、1980年代に発売された伝説的なポータブルターンテーブル「サウンドバーガー」を現代的にアップデートした製品です。Bluetooth 5.2接続、内蔵リチウムイオンバッテリー(最大12時間駆動)、USB-C充電を搭載し、重量わずか900gの軽量設計を実現しています。ATN3600Lカートリッジを標準搭載し、33 1/3 RPMと45 RPMの両速度に対応します。レトロな外観とモダンな機能を融合させたユニークなコンセプトの製品です。
科学的有効性
\[\Large \text{0.7}\]AT-SB727の技術仕様は、携帯性を重視した設計による制約が明確に現れています。ダイナミックバランス・トーンアームシステムは、針圧をスプリングで調整する方式で、精密な針圧設定は困難です。ベルトドライブ方式を採用していますが、軽量化のためプラッター質量が不足しており、回転安定性に影響を与えます。測定可能な性能として、携帯性との両立を図った設計であることは評価できますが、固定式ターンテーブルと比較すると物理的制約による性能低下は避けられません。
技術レベル
\[\Large \text{0.6}\]AT-SB727は、1980年代の設計を現代技術でアップデートした製品です。Bluetooth 5.2、USB-C充電、12時間駆動バッテリーなど、現代的な機能は適切に実装されています。しかし、基本的なターンテーブル技術は40年前のものをベースとしており、音質面での技術革新は限定的です。ATN3600Lカートリッジは同社の入門モデルで、特に高度な技術を用いているわけではありません。携帯性実現のための軽量化設計は評価できますが、音質向上のための技術投資は最小限に留められています。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.7}\]AT-SB727の価格は約2万円(USD 199)ですが、同価格帯にはSony PS-LX310BT(約2万5千円、フルオート、USB出力、より高品質な構造)が存在します。純粋な音質を求めるなら、Audio-Technica AT-LP60X(約1万5千円、固定式、より安定した再生)の方が優れています。CP = 15,000円 ÷ 20,000円 = 0.75となり、携帯性という付加価値を考慮しても、音質面でのコストパフォーマンスは劣ります。ポータブル性能に2万円を投じるなら、より高品質な据え置き型ターンテーブルの選択が合理的です。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.3}\]AT-SB727の最大の懸念は、ポータブル設計による機械的耐久性の問題です。可動部品が多く、持ち運び時の衝撃や振動による故障リスクが高くなります。内蔵バッテリーは経年劣化により交換が必要となりますが、交換サービスの詳細や長期的な部品供給については明確な情報が不足しています。Audio-Technicaのサポート体制は一般的には良好ですが、特殊なポータブル機器に対する専門的な修理体制については不明な点が多く、長期使用への不安要素となります。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.2}\]AT-SB727の設計思想は、「ノスタルジー」と「携帯性」に重点を置いており、音質向上への合理的なアプローチは二の次となっています。現代においては、デジタル音源の方が客観的に優れた音質を提供できるにも関わらず、アナログレコードの「携帯再生」という非効率な手段を選択することの合理性は疑問です。固定式ターンテーブルと比較して音質面で妥協を強いられる設計は、音楽再生機器としての本質的な目的に反します。レトロデザインの復刻という商業的な狙いが先行し、音質向上のための技術投資は軽視されています。
アドバイス
AT-SB727は、音質を重視する用途には推奨できません。純粋に音楽再生を目的とするなら、同価格帯のSony PS-LX310BTや、より安価なAudio-Technica AT-LP60Xの選択が合理的です。AT-SB727の購入を検討すべきなのは、以下の限定的な用途に限られます:1)レトロデザインへの強いこだわり、2)イベントや展示での話題性重視、3)極端に限られた設置スペースでの使用。しかし、携帯性を求めるなら、より高音質なBluetoothスピーカーにスマートフォンから音楽を再生する方が、音質・利便性・コストの全ての面で優れています。AT-SB727は、実用性よりも所有欲を満たすための製品として位置づけるべきです。
補足情報
AT-SB727は、SBCコーデックのみのサポートで、AACやaptXなどのより高品質なBluetoothコーデックには対応していません。これは、音質面での制約をさらに拡大しています。また、動いている最中の再生はできないため、実際の「携帯性」は限定的です。レコードを再生する際は、平坦で安定した場所に設置する必要があり、真の意味でのポータブル再生機器とは言えません。
(2025.7.7)