Audio-Technica ATH-M50x

総合評価
2.7
科学的有効性
0.4
技術レベル
0.6
コストパフォーマンス
0.6
信頼性・サポート
0.6
設計思想の合理性
0.5

有名なスタジオモニターヘッドホンながら、測定性能と設計思想に課題を抱える製品

概要

Audio-Technica ATH-M50xは、2012年の発売以来、スタジオモニターヘッドホンの代表格として広く知られています。45mmの大口径ドライバーを搭載し、世界中で250万台以上の販売実績を誇る人気製品です。プロオーディオ用途における信頼性と手頃な価格帯で評価を得ており、多くのホームスタジオや放送局で使用されています。着脱可能なケーブル設計や折りたたみ機構など、実用性を重視した設計が特徴的です。

科学的有効性

\[\Large \text{0.4}\]

RTINGSの測定データによると、周波数特性の一貫性が劣悪(sub-par)で、低音域で左右の差が顕著に現れます。グループ遅延性能は terrible と評価され、低音域と中低音域で負の位相シフトを示し、周波数レスポンスグラフで明確な共振が確認されています。これにより低音の締まりが欠如し、過渡応答の定義が曖昧になります。DIY Audio Heavenの測定では、80Hz以下の歪みが主に3次高調波で1%、97dB SPLでは3%近くに達し、これは1mW未満の入力で発生しています。透明レベルの達成には程遠い性能です。

技術レベル

\[\Large \text{0.6}\]

45mm大口径ドライバーにネオジウムマグネットとCCAW(銅クラッドアルミワイヤー)ボイスコイルを採用した設計は、価格帯としては妥当な技術水準です。15Hz-28kHzの周波数範囲と115.1 dB SPL/Vの感度、36.6Ωのインピーダンスという仕様は現代的な水準に達しています。着脱式ケーブルシステムや折りたたみ機構などの実用性も評価できます。ただし、2012年の設計をベースとしており、最新のドライバー技術や音響設計手法と比較すると改善の余地があります。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.6}\]

現在の日本市場価格20,300円に対し、同等以上の性能を持つ最安の代替品としてAudio-Technica ATH-M40xが11,500円で入手可能です。M40xはより正確でフラットな周波数特性を持ち、スタジオモニタリング用途では実際により優れた選択肢とされています。計算式:11,500円 ÷ 20,300円 = 0.567となり、0.6に四捨五入されます。M40xは約8,800円安く、測定データ上もより正確なモニタリング性能を提供するため、M50xのコストパフォーマンスは明らかに劣ります。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.6}\]

Audio-Technicaの製品として一般的な保証体制とサポートを提供しています。着脱式ケーブル設計により故障時の修理コストを抑制でき、交換部品の入手も比較的容易です。折りたたみ機構の長期耐久性について一部ユーザーから指摘がありますが、業界平均的な信頼性を維持しています。ファームウェア更新などは有線製品の性質上対象外です。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.5}\]

スタジオモニターとしての位置づけでありながら、測定データが示す周波数特性の不整合や低音域の共振問題は、正確なモニタリングという本来の目的に逆行しています。より安価なM40xがより正確な特性を示していることから、M50xの音響チューニングの方向性には疑問が残ります。プロオーディオ用途における科学的根拠に基づく改善よりも、一般消費者向けの音色調整を優先した設計思想が見受けられ、純粋なモニター用途としては最適化されていません。

アドバイス

ATH-M50xは知名度と販売実績こそ高いものの、客観的な測定性能では同価格帯の他製品に劣ります。正確なモニタリングが必要な用途であれば、より安価なATH-M40x(11,500円)の選択を強く推奨します。M40xは約8,800円安く、より平坦で正確な周波数特性を提供し、スタジオモニタリング用途では実際に優れた性能を発揮します。M50xの購入を検討される場合は、その知名度や外観デザインではなく、実際の音響性能と用途適合性を慎重に評価することが重要です。プロフェッショナルなスタジオワークには、測定データに基づいた合理的な選択を行うべきです。

(2025.7.20)