Bowers & Wilkins 804 D3
Diamondシリーズ第3世代のフロアスタンディングスピーカー。ダイヤモンドツイーターとContinuum FST技術を採用するも、測定性能と価格のバランスに課題があります。
概要
Bowers & Wilkins 804 D3は、英国の老舗オーディオメーカーが開発したDiamondシリーズ第3世代のフロアスタンディングスピーカーです。25mmダイヤモンドドームツイーター、130mm Continuum FST中域ドライバー、165mm Aerofoilコーン低域ドライバー2基を搭載した3ウェイ設計で、メーカー公称値では24Hz-28kHz(±3dB)の再生帯域を実現しています。プレミアムオーディオ市場における定番製品として位置づけられ、高品質なキャビネット仕上げと独自のドライバー技術により、視覚的にも音響的にも存在感のある製品として設計されています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.3}\]信頼できる第三者機関の測定データに基づく客観的評価では、可聴性に影響する複数の問題が確認されます。SoundStage!の測定によれば、周波数特性は28Hz-20kHz(±3.0dB)であり、問題レベル(±3.0dB以上)の境界線上にあります。特に高調波歪率(THD)は問題で、100Hz以下の低域では1%を超え、ソースによっては3%に達することもあり、スピーカーにおける問題レベル(1%以上)を大幅に上回ります。公称感度は90dB/2.83V/mですが、実測では88dB程度と報告されています。インピーダンスが最低3.0オームまで低下するため、アンプにとって駆動困難な負荷特性を示しています。低域の伸びは優秀ですが、全体的な測定性能は透明なレベルには到達していません。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]ダイヤモンドドームツイーターは同社の看板技術として理論的根拠があり、高い剛性と軽量性により高域の歪みを抑制する効果が期待できます。Continuum FST中域ドライバーは織り込み複合材構造により分割振動を抑制する設計で、技術的合理性があります。Aerofoil低域ドライバーも空力学的最適化により不要振動を低減する独自設計です。クロスオーバー周波数350Hz/4kHzの設定も各ドライバーの特性を考慮した適切な選択です。ただし、これらの技術は同社の長年の蓄積によるものであり、業界を革新する画期的新技術とは言えません。設計の完成度は高いものの、最新の測定技術基準では改善の余地が残されています。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.2}\]804 D3は既に生産終了しており、新品での入手は困難です。発売当時の価格はペアで約154万円(税込)でした。後継機種である804 D4の現在価格はペア約160万円(税込)です。比較対象として、現行の3ウェイフロアスタンディングスピーカーである「ELAC Uni-Fi Reference UFR52」(ペア約25万円)や「Revel Concerta2 F36」(ペア約35万円)などは、本機を上回る、あるいは同等の測定性能を大幅に安価で実現しています。同等の機能とより優れた測定性能を持つ現行製品との価格差が極めて大きいため、コストパフォーマンスは低評価となります。計算式は 250,000円 ÷ 1,540,000円 ≒ 0.16
となり、スコアは0.2です。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.8}\]Bowers & Wilkinsは1966年創立の老舗メーカーとして確立された修理体制とグローバルサポート網を持ちます。日本では正規輸入代理店を通じた製品保証が提供され、全国の認定販売店でアフターサービスを受けることができます。同社のDiamondシリーズは長期生産が基本方針で、部品供給体制も比較的安定しています。製品の堅牢な作りと品質管理により、故障率は業界平均を下回る水準を維持しています。ただし、複雑なドライバー構成のため、修理時の部品コストは高額になる傾向があります。ファームウェア更新等は必要ないパッシブスピーカーのため、長期使用における陳腐化リスクは低いと評価できます。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.7}\]各ドライバーの材料選択と配置には科学的根拠があり、ダイヤモンドツイーターによる高域歪み低減、Continuum中域による分割振動抑制、Aerofoil低域による空気流最適化など、測定可能な音質改善に寄与する方向性です。クロスオーバー設計も各ドライバーの特性を活かす合理的な選択がなされています。一方で、これらの技術投入にも関わらず、最終的な測定結果では透明レベルに到達しておらず、技術の有効活用に改善の余地があります。また、同等以上の性能を大幅に安価に実現する製品が存在することを踏まえると、本機の価格設定における専用オーディオ機器としての存在意義には疑問が生じます。伝統的なアプローチを堅実に踏襲している点は評価できますが、革新性やコスト削減への取り組みは限定的です。
アドバイス
購入を検討される方は、本製品が既に生産終了していることを考慮し、現行の3ウェイフロアスタンディングスピーカーとの客観的比較をお勧めします。「ELAC Uni-Fi Reference UFR52」や「Revel Concerta2 F36」など、より優秀な測定性能を持つ現行製品が大幅に安価で入手可能です。試聴される際は、特に低域で高いTHD特性や±3.0dBの周波数偏差が実際の音楽再生にどの程度影響するかを慎重に評価してください。特に大音量再生や精密な音像定位を重視される用途では、これらの測定上の制約が顕在化する可能性があります。中古市場での購入を検討される場合は、ドライバーの劣化状況を慎重に確認し、修理部品の入手可能性も考慮してください。アンプ選択時は、最低インピーダンス3.0オームでの駆動能力を十分に確認し、適切な電流供給能力を持つ機種を選択してください。
(2025.7.31)