Bowers & Wilkins Matrix 801 Series 3

参考価格: ? 270000
総合評価
2.9
科学的有効性
0.6
技術レベル
0.7
コストパフォーマンス
0.6
信頼性・サポート
0.5
設計思想の合理性
0.5

堅実な設計と当時先進のマトリックス補強を備えたビンテージ・フラッグシップ。最新の計測基準では完全に透明とは言い難い一方、現行の低価格帯タワーの一部と測定上同等以上で、代表価格に対するコストパフォーマンスは中程度です。

概要

Bowers & Wilkins Matrix 801 Series 3は、1992年から1998年に製造されたMatrix 801系の最終バージョンです。3ウェイ・バスレフ構成で、300mm(12インチ)ウーファー×1、126mm(5インチ)ケブラーコーン・ミッドレンジ×1、26mm(1インチ)メタルドーム・ツイーター×1を搭載します。B&W独自のMatrix内部補強でキャビネットの剛性を高め、Series 2からクロスオーバー 380 Hz / 3 kHzも見直されています。プロ用モニターとしての採用実績が高く、EMI/Abbey Road Studiosでの採用で名声を得ました[1][3]。

科学的有効性

\[\Large \text{0.6}\]

メーカー公称では、周波数レンジ(−6 dB)17.5 Hz〜25 kHz(外付けアライメントフィルター使用時)/24 Hz〜25 kHz(フィルター未使用時)フリーフィールド周波数特性 ±2 dB:20 Hz〜20 kHz(フィルター使用時)/39 Hz〜20 kHz(フィルター未使用時)感度 87 dB(2.83 V/1 m)公称インピーダンス 4 Ω歪み(95 dB/1 m):二次 <1.5%(20–100 Hz)/<0.5%(100 Hz–20 kHz)、三次 <0.5%(20 Hz–20 kHz)が示されています[1]。Series 3固有の第三者スピノラマは稀ですが、近縁のSeries 2測定ではプレゼンス帯の盛り上がりトップオクターブのエネルギー不足が観測されており、完全にフラットとは言えません[2]。総合的に、当時のハイエンドとしては良好ですが、最新の透明水準(±1 dB級の整った指向特性など)には届かないため0.6とします。
補足:アライメントフィルター使用時の低域は−3 dBで19 Hzまで拡張されます[1]。

技術レベル

\[\Large \text{0.7}\]

Matrix補強やヘッドユニット構成(ミッドレンジ上にツイーターを独立配置)は、キャビネット共振や回折対策として合理的です。保護回路の見直しやネットワーク分割配置もノイズ/相互干渉低減に寄与します。一方で、受動3ウェイ+大型エンクロージャという基本思想は1990年代の合理解であり、現代のDSP補正/アクティブ駆動と比較すると進歩は限定的です。よって0.7とします。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.6}\]

本レビューの基準価格は270,000円(1,800 USD)です。Emotiva Airmotiv T2+(約999 USD/ペア)は、実測スピノラマの線形性が概ね±2.5 dB、低歪み、定格低域拡張 35 Hz(±3 dB)と、フィルター未使用時の801 S3(±2 dBで39 Hzまで)と同等以上の低域拡張を示しつつ、価格は大幅に低廉です[4]。
計算999 USD ÷ 1,800 USD = 0.555… → 0.6(小数1位丸め)
※比較根拠:ユーザー視点の機能同等(受動フロア型ステレオ再生)周波数特性/歪みが同等以上の第三者測定が公開されているため[4]。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.5}\]

製造終了後25年以上が経過しており、電解コンデンサー等ネットワーク部品の経年劣化は避けられません。B&Wは文書類のレガシーサポートは提供するものの、現行保証はありません。堅牢なキャビネットやドライバー自体は耐久性が高い一方、純正パーツの入手性は限定的です。平均的評価の0.5とします。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.5}\]

801 S3は箱剛性・回折対策・歪み抑制など科学的な方向性を誠実に追求していますが、大型・受動・大電力アンプ依存というアーキテクチャは、小型でも測定的透明度を得やすいアクティブDSPの潮流からは距離があります。歴史的価値は高いものの、最新の合理的設計観からの加点は限定的で0.5とします。

アドバイス

ビンテージの魅力と高出力対応を重視する方には有力です。ただし外付けアライメントフィルターを使わない場合、±2 dB基準の低域は39 Hzまでである点を理解し、設置・部屋補正を丁寧に行うと良いです[1]。購入時はネットワークのオーバーホール費用を見込み、十分な駆動力のアンプを用意してください。計測整った現行代替(例:Emotiva Airmotiv T2+)は大幅に低価格であるため、純粋に測定性能と費用対効果を優先するなら新機の検討も妥当です[4]。

参考情報

[1] Bowers & Wilkins — Matrix 801 Series 3 User Manual(公式PDF): https://www.bowerswilkins.com/on/demandware.static/-/Library-Sites-bowers_apac_shared/default/dw019745d9/archive-manuals/eng_ft00009_matrix-801-s3_manual.pdf
[2] Stereophile — B&W Matrix 801 Series 2 loudspeaker Measurements: https://www.stereophile.com/content/bw-matrix-801-series-2-loudspeaker-measurements
[3] Bowers & Wilkins Blog — History of the 800 Series: https://www.bowerswilkins.com/en-us/blog/products/history-of-800-series.html
[4] Erin’s Audio Corner — Emotiva Airmotiv T2+ Tower Speaker Review(価格・測定): https://www.erinsaudiocorner.com/loudspeakers/emotiva_airmotiv_t2plus/

(2025.8.20)