dCS Rossini Transport

参考価格: ? 3525000
総合評価
2.2
科学的有効性
0.8
技術レベル
0.6
コストパフォーマンス
0.1
信頼性・サポート
0.6
設計思想の合理性
0.1

英国dCSの高級CD/SACDトランスポート。測定性能は優秀だが、機能的に同等な製品と比較して著しく高価であり、その存在意義は限定的。

概要

dCS Rossini Transportは、英国の高級オーディオメーカーdCSが開発したCD/SACDトランスポートです。価格は23,500米ドルという超高級機で、同社のデジタル処理プラットフォームを搭載しています。デュアルレーザーCD/SACD機構を採用し、CDデータを最大DSD128やDXD(24bit/352.8kHz)へアップサンプリングする機能を持ちます。筐体は444×178×437mmで重量20.6kg、シルバーまたはブラック仕上げで提供されます。同社Vivaldiシリーズで開発された単一FPGAベースのデジタル処理技術により、高精度なジッター低減と信号処理を実現しているとされます。

科学的有効性

\[\Large \text{0.8}\]

測定性能は非常に優秀です。Stereophile誌の測定では、ジッター性能が30psec未満という極めて低い値を記録しており、これは透明レベルを大幅に上回る性能です。Pierre Verany Digital Test CDを使用したエラー訂正テストでは、2mm長のギャップまで500Hzトーンにグリッチが発生せず、優秀なエラー訂正能力を示しています。AES/EBU出力のアイパターン測定でも良好なデータストリーム品質が確認されており、デジタル信号の完全性は高水準にあります。CD/SACDトランスポートとして要求される二つの重要な指標(エラー処理能力とジッター性能)において、いずれも透明レベルに近い優秀な結果を示しています。

技術レベル

\[\Large \text{0.6}\]

dCSのデジタル処理プラットフォームを搭載し、単一FPGAによる信号処理を行っています。CDデータをDSDやDXDにアップサンプリングする機能は技術的に先進的ですが、今日では同様の機能を持つ製品も多く、dCSならではの突出した優位性とまでは言えません。筐体設計や振動対策は堅牢ですが、核となるトランスポート機構はDenon製OEMであり、自社開発ではありません。Esoteric製機構の供給が終了したための選択ですが、この価格帯の製品としては技術的な独自性に欠けます。業界上位の技術水準ではあるものの、最高水準には達していません。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.1}\]

コストパフォーマンスは絶望的です。本機の核心機能である「SACDのDSD信号をデジタル出力する」ことは、より安価な製品で代替可能です。例えば、Shanling SCD1.3(1,299米ドル)は、I2SやUSB経由でDSD信号のデジタル出力に対応したSACDプレーヤーです。単純な価格比較では 1,299米ドル ÷ 23,500米ドル ≒ 0.055 となり、dCS Rossini Transportの価格は機能的に同等な製品の約18倍にもなります。測定性能のわずかな差は聴感上の意味を持たず、この莫大な価格差を正当化する要素は皆無です。実用上、ほぼ同じ結果を20分の1以下のコストで実現できる代替品が存在します。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.6}\]

dCS社による3年間の保証が提供され、英国の老舗メーカーとして確立されたサービス体制を持ちます。同社は高級オーディオ機器メーカーとして長期間の営業実績があり、アフターサービスの継続性は期待できます。ただし、使用されているDenon製トランスポート機構は、以前採用していたEsoteric製機構と比較して長期的な耐久性に懸念が残ります。機構部分の信頼性については、過去のモデルと比較して不確実性が増していると言えます。ファームウェア更新等のソフトウェアサポートは適切に提供されています。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.1}\]

測定可能なジッター性能の追求自体は合理的ですが、製品全体の設計思想には疑問が残ります。トランスポートとDACを分離する構成は、現代の高性能なジッター抑制技術の前では音質的優位性が科学的に証明されておらず、単にコストを増大させ、高価格を正当化するマーケティング戦略以上の意味を持ちません。汎用的なPCやネットワークストリーマーと高性能なDACを組み合わせることで、より低コストかつ多機能なシステムが構築可能です。本機のような高価な専用トランスポートの存在意義は、経済合理性の観点から極めて低いと言わざるを得ません。

アドバイス

dCS Rossini Transportは、測定上は優秀な性能を持つ製品ですが、購入は全く推奨できません。23,500米ドルという価格は、その機能に対して法外に高価です。例えば、Shanling SCD1.3(1,299米ドル)のようなSACDプレーヤーは、本機と同様にDSD信号のデジタル出力に対応しており、実用上同等の音楽再生体験を20分の1以下の価格で実現できます。測定値の微細な差は人間の聴覚では識別不可能なレベルであり、莫大な価格差を埋める価値はありません。dCSというブランドへの強いこだわりや、ステータスシンボルとしての所有欲を満たす以外の目的で本機を選ぶ理由は見当たりません。オーディオ性能を合理的に追求するならば、他の選択肢を強く推奨します。

(2025.7.25)