Denon AVR-X1700H
7.2チャンネル対応でDolby Atmos機能を搭載したミドルレンジAVレシーバー。該当機能・性能で競合製品と同等クラスの価格設定を実現し、優れたコストパフォーマンスを持つが、測定性能は標準的レベル。
概要
Denon AVR-X1700Hは2021年10月に発売された7.2チャンネルAVレシーバーです。80W(8Ω、20Hz-20kHz、THD 0.08%)の出力と8K/60Hz、4K/120Hz対応のHDMI機能を搭載し、Dolby AtmosやDTS:Xといった最新の立体音響フォーマットに対応しています。同価格帯の競合製品であるYamaha RX-V4AやMarantz NR1510が5.2チャンネル構成である中、7.2チャンネル対応という差別化を図った製品として位置づけされています。6つのHDMI入力のうち3つが8K対応であり、ゲーミングや最新映像コンテンツ再生にも配慮した設計となっています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.6}\]測定データに基づく音質評価では平均的な性能を示しています。THD+Nは0.08%(20Hz-20kHz、2チャンネル駆動時)と透明レベル(0.01%以下)には達していないものの、問題レベル(0.1%以上)は回避しています。S/N比は98dBで透明レベル(105dB以上)を下回るものの、実用上問題のない水準です。周波数特性は10Hz-100kHz(+1/-3dB)と公称されていますが、実測では1Hz-60kHz(-3dB)です。ダイナミックレンジは109dBと良好ですが、アナログ段での測定性能は最高水準には到達していません。全体として可聴域での音質改善効果は認められるものの、透明レベルの達成には至っていません。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]技術的観点では業界標準を上回る設計が採用されています。全チャンネルに離散型高電流アンプを搭載し、マルチチャンネル構成でのチャンネル間特性の均一性を確保しています。デジタル処理にはCirrus Logic CS49844クアッドコア32bit処理チップを採用し、Dolby AtmosやDTS:Xの高度な音場処理に対応しています。映像処理においては8K/60Hz、4K/120Hz対応のHDMI 2.1仕様を部分的に実装し、最新のゲーミングコンソールや8K映像機器との互換性を確保しています。ただし、アンプ設計自体は従来型のAB級構成であり、D級アンプのような最新の高効率設計は採用されていません。独自技術の投入は限定的で、主に既存技術の組み合わせによる製品構成となっています。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{1.0}\]価格対性能比の評価では最高水準の結果を示しています。Amazon実勢価格499USD(約75,000円)に対し、同等機能を持つ競合製品の調査を行いました。主要競合製品であるOnkyo TX-NR5100(499USD)は7.2チャンネル構成でDolby Atmos対応、Pioneer VSX-935(499USD)も7.2チャンネル80W出力でDolby Atmos対応となっています。これらの競合製品は価格が同等でチャンネル数や立体音響技術が同等であるため、ユーザー視点での機能・性能において同等です。本製品が実質的に該当機能・性能での最安クラスの製品であり、スコアは1.0となります。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.7}\]信頼性面では一般的な水準を維持しています。Denonブランドとしての保証体制は業界標準レベルで、国内外でのサポートネットワークも整備されています。ただし、2023年に後継機種AVR-X1800Hが発売されており、製品ライフサイクルの観点から長期サポートの継続性に不安があります。ファームウェア更新についても、現行製品ではないため今後の対応頻度は減少すると予想されますが、2025年現在も更新が提供されています。ユーザーレビューでは特筆すべき故障報告は見られず、長期使用での信頼性データは限定的です。メーカー保証期間は標準的で、修理体制も一般的なレベルに留まっています。新興メーカーと比較すれば安定していますが、業界最高水準とは言えません。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.8}\]設計アプローチは科学的観点から見て合理的です。8K対応やDolby Atmos実装など、測定可能な性能向上に寄与する機能に注力している点は評価できます。マルチゾーン対応により実用性を高め、HEOSによるネットワーク機能統合も現代的なユーザーニーズに対応しています。非科学的な「オーディオ神話」に基づく設計は見られず、測定データに基づいた合理的な技術選択が行われています。ただし、AB級アンプの採用は電力効率の観点から最適解とは言えません。D級アンプ技術の成熟を考慮すると、より効率的な設計が可能だったと考えられます。価格破壊的な要素は限定的ですが、競合製品との差別化を図りつつ、科学的に根拠のある機能向上を実現している点で設計思想は合理的です。
アドバイス
Denon AVR-X1700Hは7.2チャンネル構成とDolby Atmos対応を求めるユーザーにとって有力な選択肢です。特に同価格帯で7.2チャンネル構成の競合製品と比較した場合、将来的な拡張性と立体音響対応において明確な優位性があります。ただし、音質面での透明レベル達成は限定的であり、測定性能を最優先とするユーザーには推奨できません。また、2023年に後継機種が発売されているため、長期使用を前提とする場合は最新モデルの検討も推奨します。8K対応機器との接続や、中規模ホームシアターシステムの構築において、本製品は実用的な性能を提供します。純粋な音質追求よりも、機能性と拡張性を重視するユーザーに適した製品と評価できます。予算に余裕がある場合は、より高性能な上位機種の検討も価値があります。
(2025.8.4)