Denon AVR-X3800H
9.4chの本格的なAtmos対応を約165,000円で実現する合理的設計のAVレシーバー。THD 0.08%(2ch駆動時)の良好な測定性能と豊富な機能を搭載し、同等のチャンネル数を持つ競合製品の中で最安クラスの優れたコストパフォーマンスを誇る。
概要
Denon AVR-X3800Hは2022年に発表された9.4チャンネルAVレシーバーです。AVC-X3700Hの実質的な後継機として、8K/60Hz対応、Dolby Atmos、DTS:X、IMAX Enhanced、Auro 3Dといった包括的なサラウンドフォーマットをサポートします。9チャンネルのアンプを内蔵しつつ11.4チャンネルのプロセッシングに対応しており、本機単体で5.4.4などの構成が可能なほか、外部パワーアンプを追加すれば7.4.4といった、より多チャンネルのスピーカー配置も可能な拡張性を持ちます。Denonの伝統的な高音質設計と現代的なネットワーク機能を融合した、ミドルクラスのホームシアター向けAVレシーバーです。
科学的有効性
\[\Large \text{0.7}\]AVR-X3800Hの測定性能は良好なレベルを達成しています。定格出力105W(8Ω、2ch駆動時)において、全高調波歪率(THD)は0.08%を実現しています。これは問題レベルとされる0.1%を下回り、可聴領域での音質劣化を最小限に抑えています。周波数特性も20Hz-20kHzをカバーし、AVレシーバーとして標準的な性能です。ただし、透明レベルとされるTHD 0.01%以下には達しておらず、最高水準の測定性能とは言えません。とはいえ、第三者機関による実測ではプリアウト性能で非常に良好な値も報告されており、基本性能は確かです。クロストークやS/N比の公式な詳細データは限定的であり、総合的な科学的有効性は中程度の評価となります。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]技術的には業界平均を上回る設計が採用されています。Audyssey MultEQ XT32は同社の最上位クラスのルーム補正技術で、高解像度フィルターによる精密な音場補正を実現します。さらに、オプションでより高度なDirac Liveの測定・補正機能へアップグレード対応可能な点は、技術的な柔軟性を示しています。HDMI 2.1をサポートし、8K/60Hz、HDR10+、Dolby Visionといった現行の主要な映像規格に対応しています。DACやアンプ回路の詳細な技術仕様は非公開ですが、安定した出力特性は一定の技術力を示しています。ただし、革新的な独自技術や業界をリードするほどの技術的突破は見られず、堅実な技術の組み合わせに留まります。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.9}\]約165,000円という実勢価格で、9チャンネルアンプ搭載と11.4chプロセッシングを実現している点で、優れたコストパフォーマンスを示しています。同等の9チャンネル以上の機能を持つ競合製品を見ると、Onkyo TX-RZ50(9.2ch、約218,000円)やYamaha RX-A6A(9.2ch、約308,000円)などが存在します。AVR-X3800Hは、これらの競合製品を大幅に下回る価格で、より多い4chのサブウーファープリアウトなどの機能を提供します。ただし、Onkyo TX-RZ50が約159,000円でDirac Liveを標準搭載しているため、絶対的な最安値ではありません。計算式「159,000円 ÷ 165,000円 = 0.96」により非常に高いが完璧ではないスコアとなり、コストパフォーマンスは優秀だが市場最高ではありません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.7}\]Denonは1910年創立の老舗オーディオメーカーであり、日本国内でのサポート体制は確立されています。標準保証期間は1年間で業界標準レベルです。ファームウェア更新は定期的に提供されており、新しいオーディオフォーマットへの対応や機能改善が継続されています。同社のAVレシーバー製品は長期間にわたって安定したサポートが提供される傾向にあり、業界では信頼性の高いメーカーとして認知されています。ただし、保証期間外の修理費用は比較的高くなる可能性も考慮すべきでしょう。総合的には業界平均レベルの信頼性・サポート体制です。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.8}\]AVR-X3800Hの設計思想は、科学的根拠に基づく合理的なアプローチを採用しています。Audyssey MultEQ XT32やオプションのDirac Liveによる測定ベースの音場補正、HDMI 2.1による最新映像規格への対応、包括的なサラウンドフォーマットサポートなど、測定可能で客観的な品質向上に寄与する技術に重点を置いています。9.4ch構成は物理的に正確なDolby Atmosのオブジェクトレンダリングを可能にし、科学的に裏付けられた立体音響の実現を目指しています。非科学的なオカルト要素を排し、デジタル信号処理とルームアコースティック補正による客観的な音質改善を重視している点は高く評価できます。
アドバイス
AVR-X3800Hは、9チャンネル以上の本格的なDolby Atmos環境を、最もコストを抑えて構築したいユーザーに最適な選択肢です。特に5.4.4といったイマーシブサウンド環境を1台で実現したい場合、本製品は極めて有力な候補となります。外部アンプを追加すれば7.4.4構成への拡張も可能であり、将来性も備えています。購入前には、設置環境でのスピーカー配置を具体的に計画し、9.4チャンネルの能力を活かせるか確認することが重要です。より高度な音場補正機能を最初から求める場合は、Dirac Liveを標準搭載するOnkyo TX-RZ50なども比較検討するとよいでしょう。
(2025.7.27)