Electro-Voice Tour X TX1152

総合評価
2.5
科学的有効性
0.5
技術レベル
0.6
コストパフォーマンス
0.3
信頼性・サポート
0.7
設計思想の合理性
0.4

15インチプロ仕様パッシブスピーカー。同等機能を持つ低価格なパワードスピーカーが多数存在するため、コストパフォーマンスに重大な課題を抱える。

概要

Electro-Voice Tour X TX1152は、プロフェッショナル音響用途に設計された15インチ2ウェイパッシブスピーカーです。コンサートツアーなどで培われた技術を応用し、SMX2151 15インチウーファーとDH3 1.25インチチタニウムコンプレッションドライバーを搭載しています。許容入力は500W(連続)、2000W(ピーク)で、60度×40度のコンスタントディレクティビティホーンによる指向性制御を特徴とします。

科学的有効性

\[\Large \text{0.5}\]

周波数特性55Hz-20kHz(-3dB)、感度100dB(1W/1m)、最大SPL 133dBという公称スペックは、このクラスの製品として標準的な水準です。SMX2151ウーファーはFEA最適化マグネット構造とショートリングにより「超低歪み」を謳っていますが、THD(高調波歪率)などの具体的な測定データが公式に開示されていません。そのため、客観的な性能評価は限定的です。パッシブ設計の性質上、組み合わせる外部パワーアンプの性能に大きく依存するため、一貫した音質を保証することが難しく、評価は標準的なレベルに留まります。

技術レベル

\[\Large \text{0.6}\]

DH3チタニウムコンプレッションドライバーとコンスタントディレクティビティホーンの組み合わせは、プロ仕様として実績のある妥当な技術選択です。ウーファーのFEA(有限要素解析)を駆使した設計も現代的ですが、これらは業界で確立された技術の組み合わせであり、特筆すべき革新性はありません。クロスオーバーも適切な設計ですが、パッシブ設計であるため、現代のパワードスピーカーに標準的に搭載されるDSP(デジタル信号処理)による最適化といった技術的恩恵は受けられず、アプローチとしては保守的と言えます。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.3}\]

本製品の市場価格約150,000円に対し、同等以上の機能を持つパワードスピーカーがはるかに安価に存在します。例えば、Yamaha DBR15は最大SPL 132dBを発揮する15インチ2ウェイパワードスピーカーで、実勢価格約75,000円で入手可能です。TX1152はパッシブ設計のため、その性能を最大限に引き出すには別途適切なパワーアンプ(100,000円以上が目安)が必要となり、システム総額は最低でも250,000円を超えます。ユーザーが得る「15インチスピーカーから大音量の音を出す」という機能価値は同等であるため、コストパフォーマンスは著しく低いと評価せざるを得ません。計算式は 75,000円 ÷ (150,000円 + 100,000円) ≒ 0.3 となります。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.7}\]

Electro-Voiceはプロオーディオ業界で長年の実績を持つブランドであり、製品の信頼性は業界標準レベルです。合板とMDFを組み合わせたEVCoat仕上げの筐体は、業務用としての耐久性を備えています。複数の吊り下げポイントやハンドルなど、実用性も考慮されています。ただし、パッシブ設計は電子回路の故障リスクが低い一方で、システム全体の信頼性は外部アンプに依存します。保証やサポート体制は業界標準であり、特筆すべき点はありません。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.4}\]

音響工学的な設計自体は妥当ですが、現代の市場環境から見るとその設計思想の合理性には疑問符が付きます。パッシブ設計は、DSPによる最適化、内蔵リミッターによる保護、アンプとの最適な組み合わせといった、現代のパワードスピーカーが標準で提供する多くの利点を放棄しています。同等以上の性能を、より低コストかつシンプルに実現できるパワードスピーカーが主流となっている現在、あえて高コストなパッシブシステムを選択する合理的理由は、ごく一部の特殊な用途を除いて見出し難いのが現状です。

アドバイス

本製品の購入は推奨できません。同等の音圧レベルと再生能力を持つ15インチ2ウェイスピーカーシステムを導入する場合、Yamaha DBR15のようなパワードスピーカーが約75,000円で入手でき、単体で機能が完結します。一方で、TX1152(約150,000円)を選択すると、別途10万円以上のパワーアンプが必要となり、総コストは25万円以上に達します。この予算があれば、より上位クラスのパワードスピーカー(例: Yamaha DXR15mkIIのペア)の導入も視野に入り、はるかに高性能なシステムを構築可能です。パッシブスピーカーであることが必須となる特殊な現場を除き、ほとんどのユーザーにとってはパワードスピーカーを選択する方がはるかに合理的かつ経済的な選択です。

(2025.7.26)