Etymotic Research-ER4SR

総合評価
4.2
科学的有効性
1.0
技術レベル
0.9
コストパフォーマンス
0.6
信頼性・サポート
0.8
設計思想の合理性
0.9

1991年の初代ER4から続く伝統のシングルBA構成を貫く、測定精度を追求したリファレンスイヤホン。カスタムIEMに匹敵する-35dB以上の驚異的な遮音性能と、左右±1dB以内にマッチングされたドライバーがもたらす正確な音場は、他に類を見ない価値を提供します。音質だけで見れば安価な代替品も存在しますが、遮音性と測定精度を両立した唯一無二の選択肢として、プロフェッショナル用途や特定の環境下では高いコストパフォーマンスを発揮します。

シングルBA リファレンス 高遮音性 スタジオモニター アメリカ

概要

Etymotic Research ER4SRは、1991年に世界初のハイファイ・イヤホンとして登場したER4シリーズの最新モデルです。「SR」はStudio Referenceの略で、録音スタジオでの使用を想定した、極めてフラットな周波数特性を持つモデルとして設計されています。シングルバランスドアーマチュアドライバーを採用し、20Hz-16kHzの周波数特性、98-104dBの高感度、45Ωのインピーダンスという仕様を持ちます。最大の特徴は35-42dBという業界最高水準の遮音性能で、これは深い挿入位置と専用のトリプルフランジイヤーチップによって実現されています。左右のドライバーは100Hz-10kHzの帯域で±1dB以内にマッチングされており、測定精度への強いこだわりが見られます。

科学的有効性

\[\Large \text{1.0}\]

ER4SRの測定データは、その設計思想を忠実に反映しています。THD(全高調波歪率)は0.15-0.81%の範囲で、シングルBAドライバーとしては優秀な数値を示しています。周波数特性は800Hz以上でターゲットカーブに良好に追従し、800Hz以下では非常にフラットな特性を維持した後、80Hz付近から穏やかにロールオフします。2.7kHzと5kHzに意図的なブーストが設けられていますが、これは深い挿入による外耳道の影響を補正するための設計です。44mVrmsで90dBSPLを達成し、ポータブル機器での駆動も問題ありません。遮音性能の実測値-39dBは驚異的で、アクティブノイズキャンセリング機能なしでこのレベルを達成していることは特筆すべき点です。

技術レベル

\[\Large \text{0.9}\]

ER4SRの技術的な完成度は高く、特に品質管理の面で優れています。各ユニットには個別の測定証明書が付属し、周波数特性、感度、THDの実測値が記載されています。シングルBAドライバーという構成は、現代の多ドライバーIEMと比較すると単純に見えますが、位相の一貫性やトランジェント応答の優秀さという利点があります。ただし、シングルドライバーゆえの帯域幅の制限(特に低域の伸びと高域の解像度)は否定できません。ケーブルは着脱式でMMCXコネクタを採用し、長期使用を考慮した設計となっています。本体の耐久性も高く、多くのユーザーが10年以上使用している報告があります。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.6}\]

ER4SRのコストパフォーマンス評価は、どの特徴に価値を置くかで大きく変動します。

まず、純粋な音質性能(周波数特性の忠実度や低歪率)のみに注目した場合、Moondrop CHU II(約22ドル)のような安価で優れた製品が存在するため、349ドルという価格は正当化が困難です。

しかし、ER4SRの真価は「カスタムIEMに匹敵する-35dB以上のパッシブ遮音性能」と「リファレンス級の測定精度」の両立にあります。高遮音性を謳う製品としてShure SE215(約100ドル、最大-37dB)や同社のER2SE(約100ドル)が存在しますが、これらはER4SRほどの厳格な品質管理(左右±1dBマッチング等)はされていません。

「高遮音性」と「測定精度」という2つの要素を「同等の機能・性能」と定義した場合、ER4SRは唯一無二の存在となり、コストパフォーマンスは1.0に近づきます。しかし、多くのユーザーにとって「リファレンス級の測定精度」は過剰品質かもしれません。「実用上十分な高遮音性」だけであれば約100ドルで代替品が存在するため、CP = 100ドル ÷ 349ドル ≒ 0.29 となります。

ここでは、その中間的な価値と、プロ用途での信頼性を考慮し、スコアを0.6とします。この製品の価値は、単なる音質だけでなく、遮音性という物理的な機能にどれだけ支払えるかで決まります。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.8}\]

Etymotic Researchは1983年創業の老舗で、製品の信頼性には定評があります。ER4SRには2年間の保証が付属し、アメリカ国内では修理サービスも充実しています。多くのユーザーが10年以上の使用を報告しており、シングルドライバー構成のシンプルさが長期信頼性に貢献しています。交換用イヤーチップやケーブルなどの消耗品も継続的に供給されており、長期使用を前提とした体制が整っています。ただし、日本国内でのサポート体制は代理店経由となるため、アメリカ国内ほど迅速ではない点は考慮が必要です。また、深い挿入による装着感の問題で使用を断念するユーザーも一定数存在することは、購入前に認識しておくべきでしょう。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.9}\]

ER4SRの設計思想は、測定可能な性能指標を重視する極めて合理的なアプローチに基づいています。「音楽性」や「音色」といった主観的要素を排除し、純粋に測定データに基づいたチューニングを行っている点は評価できます。深い挿入による高遮音性の実現は、パッシブな手法で最大の効果を得る合理的な選択です。シングルBAドライバーの採用も、複雑なクロスオーバー回路を避け、位相特性を優先した結果と解釈できます。ただし、現代のDSP技術やマルチドライバー設計の進歩を考慮すると、やや保守的なアプローチとも言えます。それでも、明確な設計目標(スタジオリファレンス)に対して一貫したアプローチを取っている点は、高く評価できます。

アドバイス

ER4SRは特定の用途においては今でも価値のある製品ですが、一般的なリスニング用途では慎重な検討が必要です。購入を検討する場合、まず深い挿入型の装着感を体験できる機会を探すことを強く推奨します。多くのユーザーがこの装着感に適応できず、使用を断念しています。

価格性能比を重視する場合、まずMoondrop CHU II(22ドル)やCCA CRA(15ドル)などの低価格帯製品を試すことをお勧めします。これらの製品でも基本的な音質性能は十分に高く、ER4SRとの音質差は価格差ほど大きくありません。

ER4SRが真価を発揮するのは、以下のような特殊な状況です:極めて高い遮音性が必要な環境(航空機内、地下鉄など)での使用、スタジオでのモニタリング作業、聴覚検査の基準器としての使用。これらの用途では、ER4SRの特性が他の製品では代替困難な価値を提供します。

また、Etymoticブランドへの信頼や、10年以上使用できる耐久性に価値を見出せる場合は、長期的な投資として検討の余地があります。ただし、純粋な音質性能やコストパフォーマンスを求める場合は、他の選択肢を検討することを推奨します。

(2025.7.7)