FiiO M21
FiiO M21は329USDのAndroid搭載DAPとして、4基のCS43198 DACとデスクトップモードによる950mW出力を実現。しかし同等機能のJM21が199USDで提供される中、コストパフォーマンスに課題がある。
概要
FiiO M21は2025年に発表された329USDのAndroid 13搭載デジタルオーディオプレーヤーです。中国のFiiOは2007年設立以来、ポータブルオーディオ機器のコストパフォーマンスリーダーとして地位を確立してきました。M21は4基のCirrus Logic CS43198 DACチップと2段階アンプ回路を採用し、業界初のデスクトップモードを搭載することで、外部電源接続時に21Vppピーク電圧と950mW出力を実現する意欲的な製品として位置づけられています。64GBストレージ、4GBメモリ、Snapdragon 680プロセッサを搭載し、従来のポータブルオーディオの枠を超えたデスクトップレベルの性能を標榜しています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.8}\]M21の測定性能は透明レベルに達する優秀な結果を示します。THD+Nは3.5mm出力で0.0004%、4.4mmバランス出力で0.0003%を達成し、透明レベルの基準(0.01%以下)を大幅に上回ります。S/N比は125-126dBで透明レベル(105dB以上)を20dB以上超過し、クロストークは74dB(SE)、109dB(BAL)と十分な分離性能を確保しています。周波数特性は20Hz-20kHzで0.02dB以下の偏差という理想的な平坦性を実現し、ダイナミックレンジも120dB以上を確保しています。4基のCS43198 DACによるパラレル構成と2段階アンプ設計により、ノイズフロアは2.1μV(SE)、2.7μV(BAL)と極めて低く抑制されています。デスクトップモード時の950mW出力は32Ω負荷でも十分な駆動力を提供し、測定上は透明な再生を妨げる要因が見当たりません。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]M21の技術的アプローチは合理的で現代的です。4基のCS43198をパラレル駆動する構成はS/N比とダイナミックレンジの向上に有効で、理論的根拠が明確です。デスクトップモードでの外部電源活用による高出力化は、バッテリー制約を回避する実用的解決策として評価できます。Snapdragon 680とAndroid 13の組み合わせは現代的なユーザビリティを提供し、2段階アンプ回路設計も電圧増幅と電流駆動の分離により理にかなっています。しかし技術的独創性は限定的で、使用DACチップや回路構成は既存技術の組み合わせに留まります。Cirrus Logic CS43198は優秀なDACですが、業界最先端というほどではなく、アンプ回路も一般的なオペアンプベースの設計です。自社開発要素は少なく、技術レベルとしては業界平均を上回るものの、革新的とは言えません。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.6}\]M21のコストパフォーマンス評価において、同社のJM21との比較が決定的です。JM21は199USDで双CS43198 DAC、700mW+700mW出力(32Ω)、THD+N 0.0006%、S/N比130dBという、M21とほぼ同等の機能・性能を提供します。M21の329USDに対するコストパフォーマンス計算では、199USD ÷ 329USD = 0.605となり、四捨五入により0.6となります。M21の優位点はRAM容量(4GB vs 3GB)、デスクトップモードでの更なる高出力化、4基DACによる若干のS/N比改善程度で、価格差130USDを正当化する決定的な機能差とは言えません。Android 13、4.4mmバランス出力、MQAデコード、32bit/768kHzサポートなど主要機能はJM21でも提供されており、実用上の差は限定的です。市場にはHiby R4(249USD)なども存在し、M21の価格設定は同機能・性能製品と比較して割高と判断されます。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.8}\]FiiOは2007年設立から18年間の実績を持つ老舗ポータブルオーディオメーカーで、製品信頼性については良好な記録を持っています。M21には1年間の国際保証が提供され、これは業界標準的な水準です。同社のAndroid搭載DAP製品群は継続的なファームウェア更新が提供されており、既存モデルでも定期的な機能改善とバグ修正が実施されています。サポート体制は世界各地の正規代理店を通じて整備されており、日本国内でも適切な修理・交換対応が期待できます。ただし新興中国メーカーの宿命として、欧米老舗ブランドと比較すると長期サポートの不確実性は否めません。M21はSnapdragon 680という比較的新しいSoCを採用しており、当面のファームウェア更新対応は期待できますが、5年を超える長期サポートについては保証されていません。全体として業界平均を上回る信頼性・サポート水準と評価できます。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.7}\]M21の設計思想は基本的に合理的で科学的根拠に基づいています。デスクトップモードによる外部電源活用は、ポータブル機器のバッテリー制約を回避して高出力を実現する実用的アプローチです。4基DACのパラレル駆動によるS/N比向上、2段階アンプ回路による電圧・電流駆動の最適化など、音質改善につながる技術的根拠が明確です。Android 13とSnapdragon 680の採用により、従来の専用OS搭載DAPと比較して格段に向上したユーザビリティを実現しています。測定性能重視の設計姿勢も評価でき、THD+N 0.0003%、S/N比126dBという透明レベルを大幅に上回る仕様は、科学的音質評価の観点から適切です。しかし専用オーディオ機器として存在する必然性には疑問も残ります。スマートフォン+高性能USB DACの組み合わせで同等以上の性能が低コストで実現可能な現在、329USDでの専用DAP提供の合理性は限定的です。全体として科学的根拠に基づく設計ではありますが、コスト効率の観点で改善余地があります。
アドバイス
FiiO M21の購入を検討されている方には、まず同社のJM21との比較検討を強く推奨します。JM21は199USDでM21とほぼ同等の音質性能を提供し、実用上の差は限定的です。M21固有の価値としてはデスクトップモードでの更なる高出力化がありますが、これはHD800やLCD-4などの超高インピーダンス・低感度ヘッドホンユーザー以外には過剰な仕様です。一般的なIEMや32Ω程度のヘッドホンであれば、JM21の700mW出力で十分な駆動が可能です。Android搭載DAPとしての利便性を重視する場合、Hiby R4(249USD)も有力な選択肢となります。スマートフォン+高性能USB DACの組み合わせでは、iBasso DC06 Pro(119USD)やFiiO KA17(149USD)といった選択肢がありますが、これらはM21の価格(329USD)に対してコストアドバンテージを提供するものの、専用DAPとしての統合性や利便性は劣ります。M21は確かに優秀な製品ですが、価格設定が市場競合との関係で適切ではありません。予算に余裕がありデスクトップオーディオとの兼用を重視する特殊用途でのみ、その価値が発揮されると考えられます。
(2025.8.7)