final A5000
V字型音響特性を持つミドルクラスIEMですが、同等以上の忠実度を持つ競合製品が大幅に安価に存在するため、コストパフォーマンスの観点では推奨しにくい製品です。
概要
final A5000は2022年12月に発売されたインイヤーモニター(IEM)で、同社独自開発のf-Core DUドライバーを搭載しています。価格32,800円で、低音域と高音域を強調したV字型の音響特性が特徴です。真鍮製ハウジングやCCAWボイスコイルなど一定の技術的工夫は見られますが、同価格帯における競合製品との比較では明確な優位性を見出すことは困難です。
科学的有効性
\[\Large \text{0.4}\]A5000は明確なV字型の周波数特性を持ち、理想的な平坦特性からは大きく逸脱しています。信頼できる第三者の測定データによれば、低域と高域が持ち上げられているだけでなく、特に5kHz付近に聴感上目立つ強いピークが存在します。この意図的な音響チューニングは、原音忠実再生の観点では科学的有効性が限定的です。メーカーは「歪みのないリスニング体験」を謳っていますが、この特性による強い色付けが原音への忠実度を阻害しています。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]f-Core DUドライバーは同社の独自開発であり、真鍮製フロントハウジングによる磁気的影響の低減や、30μ超細線CCAWボイスコイルの採用など、一定の技術的配慮が見られます。真鍮の高比重特性を活用した振動抑制設計や、ダイアフラムの圧力均一化プロセスなど、歪み低減への取り組みは評価できます。8芯銀コートOFCケーブルの採用も技術的には妥当な選択です。ただし、これらの技術は業界最高水準とまでは言えず、他社製品でも類似の技術的アプローチが採用されています。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.1}\]価格32,800円に対し、より原音忠実性に優れた音響性能を持つ競合製品が大幅に安価で入手可能です。代表的な比較対象として、金属筐体と着脱式ケーブルを備えながら自然な音響特性を実現したMoondrop Chu II(3,500円)が存在します。この競合製品との価格比較(3,500円 ÷ 32,800円 = 0.106)に基づくと、A5000のコストパフォーマンスは著しく低いと評価せざるを得ません。同価格帯には他にも多数の選択肢が存在し、A5000を積極的に選択する合理的理由は見当たりません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.8}\]finalは日本国内で確立されたブランドとして、1年間のメーカー保証と30日間の返金保証を提供しています。ユーザーからの報告によると、保証期間内の不具合対応は迅速で、交換プロセスは約1週間で完了するなど、サポート体制は良好です。保証期間外の修理についても、小売価格の20-30%程度の費用で対応しており、長期使用における安心感は高いレベルにあります。ただし、これらのサポート水準は業界最高レベルというわけではなく、他の確立されたブランドと同等の標準的なサービスです。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.5}\]A5000の設計思想は科学的合理性の観点では矛盾を抱えています。真鍮ハウジングやCCAWボイスコイルなど歪み低減を目的とした技術的工夫は合理的である一方、最終的な音響特性は原音忠実再生から意図的に逸脱したV字型に調律されています。この方針は一部のユーザーの嗜好には合致するかもしれませんが、Hi-Fiオーディオ機器の根本目的である「透明な音響再生」とは相反します。技術的能力を音響的透明性の達成に活用していない点で、設計思想の合理性は中程度に留まります。
アドバイス
final A5000の購入を検討している方には、まず競合製品との比較検討を強く推奨します。特にMoondrop Chu II(3,500円)やTruthear Hexa(11,500円)などは、A5000より大幅に安価でありながら、より中性的で原音に忠実な音響特性を提供します。V字型の音響特性を積極的に求める場合であっても、より安価な選択肢が多数存在するため、32,800円の投資に見合う付加価値を慎重に吟味する必要があります。finalブランドへの特別な愛着がある場合を除き、客観的な性能対価格比の観点では推奨しにくい製品です。
(2025.7.30)