Focal Vestia No1
Focalが2023年に発表したVestiaシリーズのエントリーモデル。6.5インチSlatefiber振動板と1インチTAMツイーターを搭載した2ウェイブックシェルフスピーカー。同社の上位技術を継承しつつ手頃な価格を実現しているが、現在の市場価格が確認困難であり、競合製品との正確な比較検証に課題があります。
概要
Focal Vestia No1は、2023年に発表されたVestiaシリーズのブックシェルフスピーカーです。フランスの高級音響メーカーであるFocalが、上位機種で培った技術を継承しながら、より手頃な価格帯での展開を目指して開発されました。6.5インチのSlatefiber振動板ウーファーと1インチのTAM(アルミニウム・マグネシウム合金)インバーテッドドームツイーターを搭載した2ウェイ設計を採用しています。Focalらしい洗練されたデザインと、フランス本国での一貫製造による品質の高さが特徴的な製品です。
科学的有効性
\[\Large \text{0.5}\]測定データに基づく客観的評価では、周波数特性56Hz-30kHz(±3dB)、感度89.5dB/W、インピーダンス8Ω(最小4.6Ω)という仕様です。HomeTheaterHifi.comによる実測では、60Hz/83.65dBでTHD 0.072%、200HzでTHD 0.079%と良好な歪み特性を示している一方、100HzでTHD 0.89%という測定結果は、評価基準における「問題となる値(1%以上)」に近い水準であり、低域での制御に明確な課題があります。この100Hz帯域でのTHD 0.89%は、透明レベル(0.1%以下)から大きく逸脱しており、可聴性への影響が懸念されます。全体的な測定性能は業界平均を下回る結果となっています。
技術レベル
\[\Large \text{0.8}\]Slatefiber振動板技術は、リサイクルカーボンファイバーを用いた独自の複合材料アプローチであり、軽量性と剛性を両立させた技術的成果です。TAMツイーターのアルミニウム・マグネシウム合金振動板とウレタン製ウェーブガイドの組み合わせは、指向性制御と歪み抑制において科学的に妥当な設計です。フロントポート設計により壁面近接設置への配慮も見られます。ただし、これらの技術は基本的に既存の材料工学と音響工学の応用であり、革新性は限定的です。Focalの上位機種で使用されているベリリウム振動板やW-Sandwich構造と比較すると、技術的アドバンテージは控えめです。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.4}\]本製品の現在の市場価格は確認が困難なため、メーカー希望小売価格165,000円(税込)を基準に評価します。同等以上の性能を持つ競合製品として、KEF Q150(72,600円)やELAC Debut 2.0 B6.2(約54,000円)などが存在します。特にKEF Q150は、Uni-Q同軸ドライバー技術により、本製品と同等以上の性能を大幅に安価な価格で実現しています。コストパフォーマンスは「比較対象製品の価格 ÷ レビュー対象製品の価格」で算出するため、「72,600円 ÷ 165,000円 ≒ 0.44」となります。この結果を小数点第2位で四捨五入し、スコアは0.4と評価します。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.8}\]Focalは1979年創業の老舗音響メーカーとして、製品の信頼性において高い実績を持っています。フランス本国での一貫製造により品質管理が徹底されており、適切な使用環境での長期使用に対する信頼性は高く評価できます。国際的なサポート体制が整備されており、技術的な問い合わせに対しても専門的な対応が期待できます。ただし、ハイエンドブランドとしての特性上、大量生産品と比較すると部品供給やメンテナンス面でのコストは高めになる傾向があります。保証期間は業界標準レベルです。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.5}\]Vestia No1の設計アプローチは基本的に従来的なブックシェルフスピーカーの延長線上にあり、測定性能の劇的な改善や革新的なアプローチは見られません。Slatefiber振動板の採用は環境配慮とコスト削減の側面が強く、音響性能向上への寄与は限定的です。TAMツイーターも既存技術の改良版であり、同価格帯で達成可能な性能水準を大きく超えるものではありません。特に、同等機能・性能をより低価格で実現する競合製品が存在する中で、専用オーディオ機器としての存在意義が問われます。全体として、科学的に透明レベルの音質達成や価格破壊に向けた合理的アプローチは不十分です。
アドバイス
現在、Focal Vestia No1の市場での入手性は限定的であり、多くの販売店で在庫切れとなっています。入手可能な場合でも、価格の透明性に欠ける状況が続いています。科学的性能とコストパフォーマンスを重視するユーザーには、より確実に入手可能で価格も明確な代替案を推奨します。KEF Q150(72,600円)は、同軸ドライバー技術により優れた位相特性を実現し、測定データも良好です。ELAC Debut 2.0 B6.2(約54,000円)も、バランスの取れた性能を提供する有力な選択肢です。Focalブランドを希望する場合は、市場で安定供給されている他のシリーズを検討することをお勧めします。
(2025.7.30)