Fosi Audio V3
TPA3255チップとPFFB技術を採用した小型Class Dアンプ。優れた測定性能とクラス最高のコストパフォーマンスを両立
概要
Fosi Audio V3は、Texas InstrumentsのTPA3255 Class Dアンプチップを搭載したステレオ・パワーアンプです。最大の特徴は、この価格帯では珍しくPFFB(Post-Filter Feedback)技術を導入した点にあり、従来のClass Dアンプが抱えるスピーカーのインピーダンスによる周波数特性の変動問題を解消しています。最大300W×2ch(4Ω)の出力を謳い、小型筐体ながら本格的な性能を目指して設計されています。2017年設立のFosi Audioは、コストパフォーマンスに優れた製品で急成長を遂げている中国のオーディオメーカーです。
科学的有効性
\[\Large \text{0.9}\]Audio Science Review (ASR) による詳細な測定では、V3は4Ω負荷時にSINAD(信号対雑音+歪み比)102dBという非常に優れた値を記録しています。これは測定結果基準表におけるTHD+N 0.01%(-80dB)を大幅にクリアし、「透明レベル」に肉薄する性能です。周波数特性はPFFB技術の効果により、接続するスピーカーのインピーダンスに左右されず20Hzから20kHzまでほぼ完全にフラットです。出力も4Ω負荷で158W、8Ω負荷で88W(THD+N 1%時)と十分なパワーを確保しています。初期ロットでは出力の極性が反転している問題がありましたが、現在は修正されています。総合的に、価格を考慮すると極めて高い科学的有効性を示しています。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]心臓部であるTPA3255チップは2016年リリースの既存技術ですが、PFFB技術を適用して負荷依存性の問題を解決した点は技術的な工夫として評価できます。内部には日本製ニチコン/ELNAコンデンサやドイツ製WIMAコンデンサ、日本の住田製インダクタなど、高品質な部品が採用されており、基本性能を高める設計がなされています。しかし、回路の基本設計はTexas Instrumentsの推奨するリファレンスデザインをベースとしており、自社独自の回路技術による革新性は限定的です。既存技術を巧みに組み合わせ、高い測定性能を実現していますが、業界最高水準の独自技術とまでは言えず、技術レベルは業界平均を上回る程度に留まります。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{1.0}\]Amazon日本でのV3(48V電源付属)の実売価格は約16,000円です。本製品の評価において重要なのは、PFFBを搭載し、これと同等以上の測定性能(SINAD 100dB超、フラットな周波数特性)を持つステレオ・パワーアンプの中で、V3より安価な製品が市場に存在しない点です。例えば、人気のあるAiyima A07(約12,000円)も同じTPA3255チップを使用していますが、PFFBを搭載していないため、接続するスピーカーによっては高域特性が変化するなど、性能面でV3に劣ります。したがって、V3は同等以上の機能・性能を持つ製品群における実質的な世界最安機となり、コストパフォーマンスは満点の1.0と評価されます。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.6}\]Fosi Audioは2017年設立の比較的新しいメーカーであり、長期的な信頼性に関する実績はまだ発展途上です。保証期間は業界標準を超える18ヶ月で、公式サイトでのユーザー登録により24ヶ月に延長可能です。この点は評価できますが、日本国内での修理拠点や迅速なサポート体制の詳細は明確ではありません。製品品質面では、初期ロットで出力の極性反転という問題が発生しており、品質管理体制に課題があったことを示唆しています。ただし、問題発覚後の対応は迅速でした。新興メーカーとしては標準的な信頼性・サポート体制ですが、今後の実績蓄積が期待されます。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.6}\]Class D技術による高効率・小型化を追求しつつ、PFFBの採用によってClass Dアンプの弱点であった負荷依存性を克服するというアプローチは、音質向上に直結する非常に合理的な設計思想です。実績のあるTPA3255チップと高品質な汎用部品を選択し、コストを抑えながら高い測定性能を実現する戦略も理にかなっています。ただし、技術的なブレークスルーや独自の革新性に欠け、既存技術の優れた組み合わせに留まっている点、また入力がRCAのみでバランス接続に対応しない点など、さらなる進化の余地も残されています。コストパフォーマンスを最大化する製品としては合理的ですが、先進性という点では標準的な評価となります。
アドバイス
Fosi Audio V3は、2万円以下の価格帯において、測定性能で他を圧倒する選択肢です。特にPFFBによるフラットで安定した周波数特性は、様々なスピーカーと組み合わせる上で大きなメリットとなります。デスクトップオーディオや、小型でもパワフルなステレオシステムを構築したいユーザーには最適です。購入の際は、十分な性能を発揮するために48V電源付属モデルを選択することを強く推奨します。入力はRCAアンバランス接続のみですが、ほとんどの用途では問題にならないでしょう。この価格で「透明レベル」に迫る忠実再生能力が手に入る、極めてコストパフォーマンスに優れた製品です。
(2025.7.23)