概要

Fostex T500A Mk IIIは、新開発のリング型純マグネシウム振動板、精密加工の真鍮製ホーン／イコライザー、アルニコ内磁回路を備える限定生産のホーン型スーパーツイーターです。メーカー公称は7kHz–40kHz（−10dB）、8Ω、104dB/W、推奨クロスオーバーは7kHz以上（−12dB/oct）です。高級素材・高品位仕上げにもかかわらず、独立測定では実用挙動に重要な乖離と制約が確認されています。

科学的有効性

独立測定（Joseph Crowe）によれば、(1) インピーダンスで基音付近約3.1kHzとより大きい約9.4kHzの共振ピーク、(2) 指向性は10kHzまで約120°を維持する一方で12kHz時に約60°へ急速に狭窄、(3) 85dB時H2=2.74%（10kHz）、95dB時H2=6.09%（10kHz）、高次は低水準、(4) IMDは10kHzで約−58dB、20kHzで約−40dBへ悪化、(5) 時間応答は約7周期以内に大半が減衰、という結果です。重要点として、公称の超高域拡張に対し有効な実測拡張は約20kHzに留まります。以上より、最上位モデルとしての透明性要件を満たすとは言えません。

技術レベル

Mgリング振動板、真鍮ホーン／イコライザー、アルニコ磁気回路など製造品質は高水準です。しかし構成は伝統的なコンプレッション＋ホーンであり、素材の贅沢さが最新リボン／AMTに対する客観測定優位へ結び付いていません。総重量約5.15kgという機械的重厚さは評価できますが、測定性能の先進性は示されていません。

コストパフォーマンス

現在の一般新品価格は1,262 USD/台（最小2台）→2,524 USD/ペアです。機能面で劣らず（8–40kHz、8/10/12/14/16kHz切替、減衰設定あり）一般流通で最安の対抗としてAperion PST MKII Planar-Ribbon（399 USD/ペア）を基準に比較します。
比率（最安同等以上品／本機）：

(399 USD) / (1,262 USD × 2) = 0.158 ≈ 0.16

高感度（≈98–103dB）ホーン系で出力マージンを要求する場合は、同社のAperion HST AMT Dual（98–103dB、1,599 USD/ペア）が最安適合：

(1,599 USD) / (1,262 USD × 2) = 0.634 ≈ 0.63

いずれの前提でも、本機の実測有効帯域≈20kHzや歪・IMD特性を踏まえると、価格優位性は成立しません。

信頼性・サポート

Fostexは実績あるメーカーであり、堅牢な機構設計は一定の耐久性を示唆します。一方で限定生産は将来の部品供給やサービス網の確実性を下げる要因です。保証は業界標準的とみられ、弱い客観性能や価格面を補う決定的優位は認められません。

設計思想の合理性

高価素材と伝統的ホーン手法を優先しつつ、測定で裏付けられた利得が乏しい構図です。推奨≥7kHzという高いクロスも統合自由度を狭めます。投資が聴感性能の合理的最適化より外観・素材価値に偏っているため、市場上位志向＞技術的進歩の印象が強いです。

アドバイス

T500A Mk IIIは価格に見合う測定的優位を示しません。 一般的なシステムにはAperion PST MKII（399 USD/ペア）が本機価格の約16%で同等機能を提供します。高感度ホーン系ならAperion HST AMT Dual（1,599 USD/ペア）が実用的選択です。測定整合性と統合のしやすさを重視するなら、現代的なリボン／AMT系を優先すべきです。

参考情報

[1] Joseph Crowe「Fostex T500A Mk.III Super Tweeter with Horn No.2306」：周波数応答、インピーダンス、指向性、減衰、歪／IMDの独立測定。2025-08-14参照。
[2] Aperion Audio「PST MKII Planar-Ribbon Super Tweeter Pair」：仕様（8–40kHz、6Ω、94dB）と価格399 USD/ペア。2025-08-14参照。
[3] Fostex「T500A Mk III」：公称仕様（7kHz–40kHz（−10dB）、8Ω、104dB/W、推奨≥7kHz、総重量5,150g）。2025-08-14参照。
[4] Madisound「Fostex T500A MkIII Super Tweeter – Limited Production」：新品価格1,262 USD/台（最小2台）。2025-08-14参照。

(2025.8.14)