HiFiMAN EDITION XS
ステルスマグネット設計による開放型平面磁界駆動ヘッドホンで、アグレッシブな価格帯で優れた技術性能を提供するものの、信頼性への懸念と疑問視される設計思想に妨げられている
概要
HiFiMAN EDITION XSは、より手頃な価格帯で平面磁界駆動技術を提供する試みです。元々はUSD 499のMSRPで発売され、現在は約USD 269で販売されています。メーカー公称は18Ω/92dBですが、独立測定では平均インピーダンス約14.3〜14.5Ω、感度は1V基準で105.4 dB SPL(RTINGS)または約109〜111 dB/V SPL(RAA)と報告されています。EDITION XSは開放型の平面磁界駆動ドライバーを採用し、オーディオファイルやホームリスナー向けに透明性の高い再現を目指しています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.7}\]独立測定は豊富で整合的です。
- RAA: 感度109.4〜110.9 dB/V SPL(L/R)、91.0〜92.6 dB/mW SPL、平均インピーダンス14.3〜14.5Ω。90 dB SPL到達に必要電圧0.097 VRMS、音楽ピーク9 dB考慮時0.274 VRMS。測定はHDM-X/Humanスタンドで実施[1]。
- RTINGS(Test Bench 2.0): Sensitivity @1kHz-1V 105.4 dB SPL、Frequency Response Consistency SD 0.72 dB、低域RMS偏差2.3 dB・LFE 20 Hz、中域RMS偏差1.67 dB、高域RMS偏差1.59 dB、Peaks/Dips 1.83/2.35 dB、Weighted Group Delay 1.0 ms、加えてTHDは94 dB SPLで0.75%、104 dB SPLで2.05%[2]。
- DIY-Audio-Heaven: 20 Hz以下までの優秀なサブベース伸長、優秀なチャンネルマッチング、約7 kHz/約12 kHzにピーク(明るさ/シビランス傾向)。約4 kHz付近で歪み上昇(測定条件で5%超)、CSDで4.5 kHzと>10 kHzに長めの残響を確認[3]。
総合すると、低域の伸びは優秀で、歪みはレベルや手法により低〜中程度。高域に小さな不規則性があり素のままではわずかに明るい傾向。概ね20 Hz〜20 kHzで±3 dB程度に収まり、堅実な技術水準ながら、EQなしでの厳密なターゲット準拠(±0.5 dB)には届きません。
技術レベル
\[\Large \text{0.5}\]EDITION XSはステルスマグネットを採用し、従来型マグネットに比べ回折/乱流由来の音響干渉を低減します。薄膜ダイアフラム+導体パターンの平面磁界駆動は、過渡応答や歪みに理論上の利点があります。一方で、独立測定の電気的負荷は低抵抗(平均約14.4Ω)かつ効率は中庸(1V基準で105.4 dB SPL[RTINGS]、約109〜111 dB/V[RAA])に留まり、カテゴリの標準的実装の範囲です。高度な材料や強い減衰制御を重視する他社実装に比べ、飛躍的進歩とは言い難いです。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.4}\]比較はクラスや方式を問わず、機能・測定性能で劣らない中で最安の製品と行います。EDITION XS(USD 269)に対し、同社のHE400SEはUSD 109で、開放型の平面磁界駆動、ステルスマグネット、デュアル3.5mm着脱ケーブル等で機能同等です[4]。独立測定でも中立寄りの特性、優秀なサブベース伸長、低歪み(条件次第)を示し、コア指標で劣後しません。よって価格比で評価します。
USD 109 ÷ USD 269 = 0.41 → 0.4(四捨五入)。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.4}\]HiFiMANはヘッドホンに30日返金・1年保証(上位機は延長あり)を明記し、電話応対は平日9:00〜16:00(US東部)です[5]。RTINGSのビルド品質(7.5/10)では金属主体+一部プラスチックヒンジの耐久感に言及があります[2]。監査可能な故障率データは未確認のため、保証の明文化と一般的な作りの評価を総合し平均的と見なします。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.3}\]測定は全体に中立寄りながら、中域の軽い後退と高域のピーク(約7 kHz/約12 kHz)がEQの恩恵を受けることを示します[1–3]。大型平面ドライバーとステルスマグネットを優先しつつも、素の状態で厳密なターゲット準拠に至らない点は、コスト配分が減衰・制御よりもドライバー規模に向いていることを示唆します。より廉価な平面(HE400SE)や一部ダイナミックがコア指標で同等以上となり得ることから、透明性最重視の観点では最適化余地があります。
アドバイス
HiFiMAN EDITION XSはアグレッシブな価格帯で平面磁界駆動技術を提供し、平面ならではの特性(高速過渡、低歪み)を求めるユーザーに適します。一方で、同等の開放型平面構成で大幅に安価なHiFiMAN HE400SE(USD 109)や、プロ用途に向くAudio-Technica ATH-R70x(USD 209〜379)も検討価値があります。平面志向ならEDITION XSは堅実な選択ですが、優先事項と予算次第では、より安価な代替やプロ指向のダイナミック機に高い価値を見いだせます。
参考情報
[1] Reference Audio Analyzer, “HiFiMan Edition XS Measurement’s report”, https://reference-audio-analyzer.pro/en/report/hp/hifiman-edition-xs.php, 2025年8月アクセス
[2] RTINGS, “HiFiMan Edition XS Review”, https://www.rtings.com/headphones/reviews/hifiman/edition-xs, 2025年7月更新、Test Bench 2.0
[3] DIY-Audio-Heaven, “Edition XS (2023)”, https://diyaudioheaven.wordpress.com/headphones/measurements/hifiman/edition-xs-2023/, 2025年8月アクセス
[4] HiFiMAN Store, “HE400SE”, https://store.hifiman.com/index.php/he400se.html, 2025年8月アクセス
[5] HiFiMAN, “Warranty Policy”, https://store.hifiman.com/index.php/warranty-policy, 2025年8月アクセス
(2025.8.10)