Holo Audio May DAC KTE

総合評価
3.0
科学的有効性
0.8
技術レベル
0.8
コストパフォーマンス
0.2
信頼性・サポート
0.8
設計思想の合理性
0.4

優れた測定性能を誇るフラッグシップR2R DAC。しかし、技術選択の合理性に乏しく、より安価で高性能な代替品の存在によりコストパフォーマンスは極めて低い。

概要

Holo Audio May DAC KTEは、中国のHolo Audioが開発したフラッグシップR2R DACです。KTE(Kitsune Tuned Edition)は、標準モデルから部品をアップグレードした最上位モデルで、価格は約5,600 USDです。市販のDACチップに頼らない独自のディスクリートR2Rラダー技術と、NOS(非オーバーサンプリング)モードでの動作を特徴とし、DSD1024、PCM 1.536MHzまでの高解像度フォーマットに対応します。Holo Audioの技術力を示す象徴的な製品ですが、その価格と技術選択には課題も抱えています。

科学的有効性

\[\Large \text{0.8}\]

本機の測定性能は非常に優秀です。THD(全高調波歪率)は0.0001%未満、IMD(相互変調歪み)も0.0002%と、ポリシーの透明レベルを大幅にクリアしています。チャンネル分離は122dB以上、分解能は22ビットに達するなど、主要な指標で卓越した性能を示します。この性能はR2R方式としてはトップクラスですが、市場全体で見ると、最新の高性能ΔΣ方式DACの中には、これを上回る、あるいは同等の性能をより低価格で実現する製品も存在するため、絶対的な最高水準とは言えません。

技術レベル

\[\Large \text{0.8}\]

ディスクリートR2Rラダー技術の実装において、業界でも高水準の設計を実現しています。独自のリニア補償回路で抵抗誤差を極限まで抑え、高い直線性を達成している点は特筆に値します。KTE版では、強化されたUSBモジュールや高品質な内部配線など、測定性能の向上に寄与する技術が投入されています。しかし、これらの技術はあくまでR2Rという枠内での最適化です。最新のチップベースのΔΣ方式DACと比較して性能面で明確な優位性はなく、絶対的な技術水準では最高峰には及びません。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.2}\]

コストパフォーマンスは極めて低いと評価します。約5,600 USDという価格に対し、内部の技術方式にこだわらなければ、より安価で高性能な選択肢が存在します。例えば、Topping D90 III Sabre(約900 USD)は、SINAD値でMay DAC KTEを上回る測定性能を、8分の1以下の価格で提供します。計算式は 900 USD ÷ 5,600 USD ≒ 0.16 となり、スコアは0.2です。高級部品やKTE版の調整に価値を見出すユーザーもいるかもしれませんが、純粋な性能対価格比で見た場合、その価格設定を正当化することは困難です。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.8}\]

Holo Audioは中国メーカーとして十分な実績があり、製品の基本的な品質や安定性は良好です。中古市場での価格が比較的高値で維持されていることも、製品への信頼感を示唆しています。標準的な保証期間とサポート体制が提供されており、KTE版は代理店による追加の品質チェックも行われています。グローバルなサポート網では欧米の老舗に及ばない可能性はありますが、このクラスの製品として信頼性は標準以上のレベルにあると評価できます。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.4}\]

本製品の設計思想は、科学的合理性に欠けると言わざるを得ません。測定性能で優位性がなく、高コストになりがちなディスクリートR2R方式に固執しているためです。本機が達成した優れた測定結果は、R2R方式でも高い性能が出せるという技術的証明にはなりますが、より低コストなΔΣ方式で同等以上の性能が達成できる以上、その技術選択は合理的ではありません。これは、科学的根拠よりも特定の技術へのこだわりや、「R2Rは音が良い」といった非科学的な思想を優先した結果であり、設計思想の合理性は低いと評価します。

アドバイス

Holo Audio May DAC KTEは、測定性能上は透明レベルを達成しており、音質に不満を感じることはないでしょう。しかし、その購入は慎重に検討すべきです。純粋な性能を求めるのであれば、Topping D90 III Sabreのような、数分の一の価格で同等以上の性能を持つΔΣ方式DACが多数存在します。May DAC KTEの価格は、その大半がR2Rという特定の技術方式と高級部品のために支払われます。この点に特別な価値を見出し、予算に大きな余裕がある場合を除き、価格差をアンプやスピーカーなど、音質への影響がより大きい部分へ投資する方が、システム全体の満足度は高くなるでしょう。

(2025.7.31)