Klipsch RP-600M II
Klipsch RP-600M IIは、6.5インチウーファーと1インチホーンツイーターを搭載した2ウェイブックシェルフスピーカーで、前モデルよりも音響性能が向上していますが、設計思想の合理性や特定の技術的制約により評価が限定されます。
概要
Klipsch RP-600M IIは2022年に発売されたReference Premiere第二世代の2ウェイブックシェルフスピーカーで、従来モデルの6.75インチ角に拡大されたconical-tractrix高周波ホーン(従来5.75インチ角から18%拡大)と、70%大型化されたボイスコイルを持つ6.5インチCerametallicウーファー、Faradayリングとアルミニウムショートリングによる歪み低減設計を採用している。649USD(ペア)の価格で提供され、従来モデルの音響的課題を改善した製品として位置付けられる。
科学的有効性
\[\Large \text{0.4}\]RP-600M IIの公称感度は94.5dBであるが、実際の測定では86dB @2.83V/1mとなり、公称値との8.5dBの重大な乖離が見られる。これは仕様表示の科学的透明性において重大な問題である。周波数特性については従来モデルと比較してより中性的な特性を示し、クロスオーバー領域でのノイズ低減と高域のスムーズさが改善されている。しかし8kHz付近から始まる高域ブーストは残存し、約20度の外向き角度調整が必要である。水平指向性は従来モデルより改善されているが、人間の聴覚において完全に透明な再生に必要な水準には達していない。科学的有効性の評価では、仕様偽装と測定性能の両面で問題がある。
技術レベル
\[\Large \text{0.6}\]RP-600M IIは18%拡大されたホーン設計によりキャビネットエッジに近づけることで乱流と指向性異常を低減、70%大型化されたボイスコイルによる制御・速度・精度の向上、Faradayリングとアルミニウムショートリングによる歪み低減、追加の内部ブレーシングによるキャビネット強化など、従来モデルからの技術的改良が施されている。これらの改良により、従来モデルの音響的課題を効果的に改善している。しかし、基本的な設計思想はKlipschの従来技術の進化版であり、業界全体から見て革新的な技術的独自性は限定的である。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.3}\]RP-600M IIの日本での価格は113,800円(ペア)であり、同等または優れた性能の2ウェイブックシェルフスピーカーとしてYamaha NS-B330(36,279円)が存在する。Yamaha NS-B330は13cmウーファー、3cmアルミツイーター、周波数特性55Hz-40kHz、感度87dB、推奨アンプ出力40W、ハイレゾ対応という仕様を持つ。測定データによると、RP-600M IIの実際の感度は86dB @2.83V/1m(公称94.5dBに対し)であり、Yamaha NS-B330の87dB公称値と同等である。しかしYamaha NS-B330はより深い低域再生(55Hz vs 48Hz)と通常設置での使用が可能であり、RP-600M IIの20度角度調整を必要としない。CP = 36,279円 ÷ 113,800円 = 0.32となり、Yamaha製品が約3.1倍安い価格で優れた性能を実現している。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.6}\]Klipschは米国のオーディオ企業として長い歴史を持ち、RP-600M IIも標準的な保証とサポートを提供している。家具グレードのMDF製キャビネットと追加の内部ブレーシング構造により、物理的な耐久性は従来モデルより向上している。デュアル入力端子によるバイワイヤリング・バイアンプ対応、磁気取り付けグリルなど、実用的な機能が提供されている。しかし、ホーンツイーターの特性上、8kHz付近の高域ブーストに対する設置角度調整(約20度の外向き角度)が必要であり、一般ユーザーにとっての使い勝手において制限がある。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.3}\]RP-600M IIの設計思想は従来モデルの問題点を改善する方向で進化しているが、基本的なホーンツイーター設計に由来する深刻な問題は残存している。最も重要な問題は、公称感度94.5dBと実測86dBの8.5dB乖離で、これは仕様表示の透明性において重大な問題である。8kHz以上の高域ブーストと指向性の制約により約20度の外向き角度調整が必須となり、通常のステレオ設置での使い勝手を大幅に制限する。同価格帯のELAC B6.2やKEF Q150のような設計では、このような制約なしに優れた音響性能を実現している。後方ポート設計による壁からの距離要求(最低1フィート)も設置制約を増加させる。測定データに基づく比較では、Klipschの設計思想の合理性は著しく限定的である。
アドバイス
RP-600M IIは従来モデルの音響的課題を効果的に改善しており、113,800円の価格帯において約2倍の価格のMonitor Audio Silver 100 7Gと比較してコストパフォーマンス面で優位性を示している。高感度設計により小出力アンプでも充分な音量を得られ、ロック・エレクトロニック・ダイナミックな音楽での優れた「パンチ」と動的変化への対応能力を持つ。しかし、最適な音響再生のためには約20度の外向き角度調整、グリルの使用、壁からの適切な距離確保が必要である。ホームシアター用途では高感度とダイナミックな音響特性が活かされる。より深い低域再生や高い出力対応、広い周波数帯域を求める場合は、価格差を許容してMonitor Audio Silver 100 7Gを検討することを推奨する。
(2025.7.9)