KORG Nu 1

総合評価
3.2
科学的有効性
0.6
技術レベル
0.7
コストパフォーマンス
1.0
信頼性・サポート
0.4
設計思想の合理性
0.5

KORGが2018年に発売したNutube搭載の統合型DAC/ADC/プリアンプ。生産終了品だが、その多機能性と公称性能を考慮すると、中古市場において比類のないコストパフォーマンスを発揮するニッチな製品。

概要

KORG Nu 1は、シンセサイザーで著名なKORGが2018年に発売した統合型オーディオ機器です。DAC、ADC、プリアンプ、MM/MCフォノステージの全機能を1台に統合し、同社独自のNutube技術(固体素子による真空管風デバイス)を2基搭載しています。DSD 11.2MHz対応やバランス入出力など高級機の仕様を備えながら、現在は生産終了となっています。本機は特に「アナログレコードのデジタル化」用途に特化した製品として開発されました。

科学的有効性

\[\Large \text{0.6}\]

公称スペックではダイナミックレンジ120dB、周波数特性10Hz-80kHz(-3dB)を謳っていますが、第三者による詳細な実測データが入手できないため、科学的有効性の評価は限定的です。カタログスペック上、ダイナミックレンジ120dBは現代の基準でも十分なレベルですが、実測での検証が不可欠です。Nutube技術は意図的に真空管の歪み特性を付加するため、音源の忠実再生という透明度の観点からは問題となります。DSD 11.2MHzやPCM 384kHzといったスペックは優秀ですが、実際の性能が不明なため、評価は中間レベルに留まります。

技術レベル

\[\Large \text{0.7}\]

Nutube技術はノリタケ伊勢電子との共同開発による独自技術として評価できます。固体素子で真空管の動作を模擬する技術的アプローチは革新的で、従来の真空管が抱える消費電力や寿命の問題を解決しています。トロイダルトランス電源、フルディファレンシャル回路、DSDネイティブでのマルチトラック録音対応など、総合的な設計レベルは高水準です。ただし、Nutube部分は意図的な音質変化を目的としており、純粋な性能向上技術とは言えません。業界平均を上回る技術が投入されていることは認められます。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{1.0}\]

本機は生産終了製品のため、中古市場での価格(約30,000円)で評価します。評価の基準として、本機の全機能(DAC/ADC/プリアンプ/フォノ)を代替し、かつ公称ダイナミックレンジ120dBに匹敵する性能を持つ現行製品の最安構成を探します。例えば、高性能オーディオインターフェース「MOTU M4」(実測ダイナミックレンジ115-120dB、約40,000円)と、高性能フォノプリアンプ「Schiit Mani 2」(約20,000円)の組み合わせが考えられます。この構成の合計価格は約60,000円となり、本機の中古価格を大幅に上回ります。したがって、2025年現在、Nu 1の中古品は、その機能と公称性能において市場で最も安価な選択肢です。よって、スコアは1.0となります。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.4}\]

KORGは確立された音響機器メーカーですが、本機は既に生産終了しており、公式サポートは限定的です。Nutubeは比較的新しい技術であり、長期的な信頼性に関するデータは十分ではありません。製品の重量5.9kgの堅牢な筐体は品質の高さを示唆しますが、独自部品であるNutubeの将来的な入手性には不安が残ります。特殊技術の採用は、一般的なDAC/プリアンプ製品に比べて修理対応の複雑化を招く可能性があり、マイナス要因となります。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.5}\]

配線を簡素化する統合型設計は合理的です。しかし、Nutubeによる意図的な歪み付加は、測定性能における透明性の向上を目指す現代オーディオの方向性と相反します。アナログレコードのデジタル化に特化した思想は特定用途で有効ですが、汎用機器としては専門性が過度です。基本的な機能は安価な汎用機器でも代替できますが、本機の公称スペックに匹敵する性能を求めると、むしろこの専用機の中古価格が合理的となる逆転現象が起きています。この点はニッチな要求に応えるという意味で、限定的な合理性があると言えます。

アドバイス

本製品は生産終了しており、中古市場でのみ入手可能です。DSDフォーマットでのアナログレコードのデジタル化という明確な目的があり、かつそのための多機能(DAC/ADC/フォノ)を高スペックで安価に手に入れたいユーザーにとっては、唯一無二の選択肢と言えるでしょう。中古市場において、そのコストパフォーマンスは驚異的です。一方で、Nutubeによる音質変化を好まない場合や、単純なDAC/プリアンプとしてより透明な音質を求める場合は、ToppingやS.M.S.L.などの最新製品を選ぶ方が合理的です。購入を検討する際は、このユニークな価値と、生産終了品としてのサポートや部品供給のリスクを天秤にかける必要があります。

(2025.8.1)