KZ ZAX
KZ ZAXは7BA+1DDのハイブリッド構成を採用したイヤホンですが、現在の市場基準では測定性能と価格競争力に課題があります。
概要
KZ ZAXは中国のKnowledge Zenithが開発した7BA+1DDのハイブリッドイヤホンです。10mmダイナミックドライバーと7つのバランスドアーマチュア(30019×2、50024×4、30095×1)を搭載し、インピーダンス24Ω、感度113dB/mWの仕様を持ちます。亜鉛合金とアクリル樹脂による筐体設計で、銀メッキケーブルが付属します。同社のフラッグシップモデルとして位置づけられており、従来のKZ製品よりもバランスの取れた音質を目指して開発されました。
科学的有効性
\[\Large \text{0.4}\]Reference Audio Analyzerによる測定データによると、周波数特性に不均一性が確認されており、20Hz-20kHz範囲での偏差が見られます。ただし、測定環境や条件による差異があるため、複数の測定ソースによる検証が望ましい状況です。THD(全高調波歪率)については詳細な測定データが公開されていませんが、ヘッドホン・イヤホンカテゴリにおいては0.05%以下が優秀レベルとされ、0.5%以上が問題レベルとなります。S/N比についても具体的な数値が確認できず、透明レベルの105dB以上を満たしているかは疑問です。現在の高性能DACやアンプが達成している透明レベルと比較すると、可聴域での音質改善効果は限定的です。
技術レベル
\[\Large \text{0.5}\]7BA+1DDのハイブリッド構成は技術的には興味深い試みですが、業界標準レベルの設計です。10mmダイナミックドライバーと複数のBAユニットの組み合わせは他社でも一般的に採用されており、特別な独自性は見られません。クロスオーバー設計についても詳細な技術情報が公開されておらず、単純にドライバー数を増やしただけの印象が強いです。亜鉛合金筐体の機械加工精度は良好ですが、音響設計における革新性や測定性能の向上に直結する技術的優位性は確認できません。現在の最新技術水準から見ると、既存技術の組み合わせレベルに留まります。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.5}\]KZ ZAXの現在の市場価格は約6,000円ですが、同等以上の性能を持つ競合製品として、Moondrop Chu II(約3,000円)が存在します。Moondrop Chu IIは周波数特性がより平坦で、単一ダイナミックドライバー構成でありながら大幅に安価です。コストパフォーマンスは「比較対象の価格 ÷ レビュー対象の価格」で算出するため、「3,000円 ÷ 6,000円 = 0.5」となり、スコアは0.5となります。さらに、付属ケーブルとイヤーピースの品質が低いため、実用レベルにするには追加でアクセサリ投資を要する点を考慮すると、市場での価格競争力は高いとは言えません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.5}\]KZは中国の新興オーディオメーカーであり、品質管理体制や長期的な信頼性については限定的な情報しか得られていません。保証期間は標準的な1年間ですが、日本国内での修理サポート体制は整備されていません。RMA(返品・交換)比率やMTBF(平均故障間隔)などの具体的な信頼性データは公開されていません。オンラインレビューでは個体差による音質のばらつきや、ケーブル接続部の耐久性に関する報告が散見されます。ファームウェア更新の必要性はないため、この点での評価は該当しません。業界平均水準のサポート体制と推定されますが、確証は得られていません。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.5}\]多ドライバー構成によるワイドレンジ再生を目指す設計思想は理解できますが、測定結果を見る限り、単純にドライバー数を増やすことが音質向上に直結していません。8kHz付近の共振ピークは設計上の問題を示唆しており、クロスオーバー設計の最適化が不十分と考えられます。現在の技術水準では、より少ないドライバー数でも平坦な周波数特性を実現することが可能であり、複雑化による弊害の方が大きい可能性があります。価格破壊を目指す姿勢は評価できますが、測定性能の向上よりもマーケティング的な訴求力を重視した設計という印象が強いです。科学的根拠に基づく音質改善よりも、見た目のインパクトを重視した非合理的な側面が見られます。
アドバイス
KZ ZAXの購入を検討されている方には、同等機能でより優れた選択肢をお勧めします。測定性能を重視するのであれば、より平坦な周波数特性を持つMoondrop Chu IIが約3,000円で入手可能です。KZ ZAXを選択する場合は、付属アクセサリの品質が低いため、追加でSpinFitイヤーピース(約1,500円)と交換用ケーブル(約2,000円)の購入を推奨します。音楽ジャンルとしては低域の迫力を重視するEDMやロックには適していますが、クラシックやジャズなどの音場の正確性を求める用途には向いていません。現在の市場環境では、同じ予算でより科学的に優れた選択肢が複数存在することを認識して判断することが重要です。
(2025.7.23)