Marantz Cinema 70s

参考価格: ? 103300
総合評価
3.4
科学的有効性
0.6
技術レベル
0.6
コストパフォーマンス
0.7
信頼性・サポート
0.9
設計思想の合理性
0.6

薄型7.2ch AVレシーバー。8K対応だが50Wの低出力が性能を大きく制約する

概要

Marantz Cinema 70sは、老舗オーディオメーカーのマランツが開発した7.2チャンネルのスリムデザインAVサラウンドレシーバーです。1953年創業のマランツは高品質オーディオ機器で定評があり、本機は薄型設計と8K対応を特徴とする現代的なホームシアター向け製品です。定格出力50W/ch(8Ω、2ch駆動)、Dolby AtmosやDTS:Xに対応し、6系統のHDMI入力(うち3系統が8K/60Hz対応)とHEOSストリーミング機能を備えています。

科学的有効性

\[\Large \text{0.6}\]

THD+N 0.08%(定格出力時)は、問題レベル(0.1%以上)は下回るものの、科学的な透明レベルの基準(0.01%以下)には達していません。S/N比も98dB(IHF-A)と、透明レベル(105dB以上)には及ばず、平均的な性能に留まります。出力は50W/chと公称されていますが、これは2チャンネル駆動時の値であり、7チャンネルを同時に駆動する際の各チャンネルの実効出力はさらに低下します。このため、特に大型スピーカーや広い空間では、十分な音圧とダイナミクスを確保することが困難になる可能性があります。

技術レベル

\[\Large \text{0.6}\]

HDMI 2.1による8K/60Hz映像伝送や、Dolby Atmos、DTS:Xといった最新音声フォーマットへの対応など、現代のAVレシーバーとして求められる基本機能は備えています。高さ109mmの薄型設計は設置性向上に寄与しますが、そのために採用されているクラスD増幅回路やDSP処理は業界標準的なコンポーネントであり、技術的な独自性や先進性に乏しいと言えます。HEOSによるストリーミング機能も利便性は高いものの、他社も広く採用しており、音質向上に直接寄与する革新的な技術ではありません。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.7}\]

現在価格103,300円に対し、より高出力な競合製品が存在します。例えば、DenonのAVR-X2800Hは、95W/ch(8Ω、2ch駆動)の出力を持ち、同等の8K対応機能やHEOSを備えながら76,000円で販売されています。計算式(76,000円 ÷ 103,300円 = 0.736)に基づくと、本機のコストパフォーマンスは平均をわずかに上回るレベルです。しかし、純粋な性能対価格比で見ると、より優れた選択肢が存在することは明らかです。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.9}\]

マランツは70年以上の歴史を持つ信頼性の高いブランドであり、製品の品質管理や耐久性には定評があります。日本国内では3年間の製品保証が提供され、サポート体制も充実しています。AVレシーバーのような複雑な電子機器において、長期間の安定動作が期待できる設計と、継続的なファームウェア更新による機能改善の可能性は高く評価できます。故障率やサポート対応の評判も良好であり、価格帯を考慮すると非常に高い信頼性を提供しています。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.6}\]

薄型による設置性向上と8K対応による将来性の確保は、現代のニーズに応える合理的な側面です。しかし、そのトレードオフとして基本性能である出力を50W/chに抑えた点は、設計思想としての合理性に疑問が残ります。特にマルチチャンネル再生では全チャンネルの出力が大幅に低下するため、スピーカーの駆動能力に深刻な制約が生じます。高効率スピーカーとの組み合わせが前提となり、製品の汎用性を著しく狭めています。デザインのために音質の中核をなす駆動力を犠牲にするアプローチは、科学的合理性より意匠を優先した結果と言わざるを得ません。

アドバイス

Cinema 70sは、設置スペースに厳しい制約があり、どうしても薄型デザインが必須というニッチなニーズ向けの製品です。8K対応は将来性がありますが、50Wという低い出力は大きな弱点です。能率の低いスピーカーや広いリビングでの使用には全く向いておらず、ニアフィールド環境や高能率なサテライトスピーカーとの組み合わせに限定されます。出力を重視する場合、同価格帯でより高性能なDenon AVR-X2800Hのような代替品を強く推奨します。マランツブランドへの信頼やデザインを最優先する特別な理由がなければ、他の高出力な製品を選択する方が合理的な判断です。

(2025.7.29)