Marantz M-CR612
CDプレーヤーを内蔵する一体型システムとして優れたコストパフォーマンスを誇るが、測定性能には改善の余地がある製品
概要
Marantz M-CR612は、CDプレーヤー、ネットワークストリーミング、アンプ機能を統合したコンパクトなオールインワンシステムです。2019年にリリースされた本機は、前モデルM-CR611の成功を受け継ぎ、HEOS技術によるマルチルーム対応や各種ストリーミングサービスへの対応を特徴としています。280mm×111mm×303mmのコンパクトな筐体に、Texas Instruments製のPCM5102A DACチップとClass Dアンプ回路を搭載し、定格50W×2ch(6Ω)の出力を実現しています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.4}\]測定性能の観点では改善の余地が見られます。公式仕様によると、THD(1kHz、5W、6Ω)は0.1%と発表されていますが、これは透明レベルの0.01%を大きく上回っています。SNRは90dBと問題レベルの80dBは上回るものの、理想的な105dB以上には届きません。周波数特性は10Hz-40kHz(±3dB)と公称されており、±3dBという数値は問題レベルの境界線上にあります。Class Dアンプ特有の高効率性は評価できますが、聴覚上の透明性という観点では最新のデジタル技術水準に比して劣る部分があります。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]技術的な実装においては業界平均を上回る水準を示しています。TI製PCM5102A DACとデジタルアンプの組み合わせは合理的な設計選択です。HEOS技術の統合により、マルチルーム再生や各種ストリーミングサービスへの対応を実現しており、ネットワーク機能の実装は先進的です。PWMアンプ回路においてもClass D特有の硬さを抑制する工夫が見られます。ただし、使用されているチップセットは既製品の組み合わせであり、独自技術の投入は限定的です。192kHz/24bit PCMおよび5.6MHz DSD対応は現代的な要求を満たしています。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.9}\]コストパフォーマンスは優れています。本機(レシーバー単体)の現在の市場価格70,000円に対し、CD再生、ネットワークストリーミング、アンプ機能を統合した製品として、より安価な選択肢が存在します。例えばPanasonicのSC-PMX900は、スピーカーが付属したシステムでありながら60,000円で販売されています。純粋な機能対価格比では、スピーカーまで含めてより安価な代替品が存在するため最高評価には至りませんが、計算式:60,000円 ÷ 70,000円 ≒ 0.86となり、コストパフォーマンス評価は0.9となります。これは、一体型ネットワークCDレシーバーというカテゴリにおいて非常に競争力のあるポジションです。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.8}\]Marantzブランドとしての信頼性とサポート体制は業界標準を上回ります。前モデルM-CR611が日本市場で長期にわたりトップセールスを記録した実績は、品質と市場受容性の証明といえます。老舗オーディオメーカーとしての修理体制やファームウェア更新対応も安定しており、長期使用における安心感があります。HEOS技術のソフトウェア更新も継続的に提供されており、機能向上への取り組みが見られます。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.6}\]設計アプローチは現代的要求に対して一定の合理性を示しています。CDプレーヤーとネットワークストリーミング機能の統合は、既存CDコレクションを活用しつつ現代的な音楽配信サービスにも対応するという実用的なアプローチです。Class Dアンプの採用による高効率化と発熱抑制は合理的な選択といえます。HEOS技術によるマルチルーム対応も先進的です。しかし、測定性能面で最新の基準に劣る部分があり、設計思想の合理性には改善の余地があります。
アドバイス
M-CR612は、コンパクトな設置スペースでCDプレーヤーとネットワークストリーミングの両方を必要とするユーザーに適した選択肢です。特に既存のCDコレクションを活用しつつ、HEOSエコシステムによるマルチルーム再生も利用したいユーザーには、優れたコストパフォーマンスを持つ有力な候補となります。本機はレシーバー単体のため、好みのスピーカーを自由に組み合わせられる利点がありますが、スピーカーの費用を含めたトータルコストを考慮することが重要です。より高い音質性能を求める場合は、Technics SA-C600のような上位製品の検討も推奨されます。
(2025.8.2)