Marantz PM-10

参考価格: ? 1200000
総合評価
3.0
科学的有効性
0.8
技術レベル
0.6
コストパフォーマンス
0.3
信頼性・サポート
0.7
設計思想の合理性
0.6

Marantzの初代リファレンス級Class Dアンプ。測定性能は透明レベルを達成するが、コストパフォーマンスに致命的な問題を抱える。

概要

Marantz PM-10は2016年に8,000USDで発売されたリファレンス級統合アンプです。MarantzブランドがClass D技術を初めて本格採用した記念すべき機種であり、200W(8Ω)/400W(4Ω)の出力を持つデュアルモノ設計を特徴とします。「アナログスイッチドモード設計」と呼ばれる独自のClass Dアンプ部を持ち、完全バランス回路とカスタムHDAMモジュールを組み合わせています。現在は生産終了となり、後継機であるMODEL 10(15,000USD)に置き換えられています。

科学的有効性

\[\Large \text{0.8}\]

PM-10の測定性能は透明レベルの基準を満たしています。THD+Nは0.005%と透明レベル(0.01%以下)を大幅にクリアし、S/N比も111dB(高レベル入力)と基準の105dB以上を達成しています。周波数特性は5Hz-50kHzと可聴域を大きく上回る範囲をカバーし、ダンピングファクター500という高い値を示します。これらの数値は人間の聴覚にとって透明な音響再生を実現するのに十分な性能です。第三者による実測データ(HiFi NewsレビューやAudio Science Reviewの関連測定など)でもTHDの低さと出力の高さが確認されており、評価を裏付けています。ただし、詳細な第三者測定データが限定的である点が評価を制限しています。

技術レベル

\[\Large \text{0.6}\]

PM-10はMarantzとしては意欲的な技術的挑戦を示した製品です。完全バランス構成のデュアルモノ設計、ブリッジ出力構成、そして従来のアナログ志向から脱却したClass D技術の採用は、2016年当時としては先進的でした。プリアンプ部に独立したリニア電源、2基のブリッジモノパワーアンプにそれぞれスイッチング電源を配置する構成は合理的です。しかし、2025年時点での技術水準から見ると、専業Class Dメーカーが既に実現していたより高度なPurifiやHypexベースの設計と比較すると、技術的優位性は限定的です。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.3}\]

PM-10のコストパフォーマンスは極めて低い水準です。同等以上の測定性能を持つ競合製品として、Purifiベースの統合アンプ(NAD C399など)が約2,199USDで入手可能です。これらの製品はPM-10と同等またはそれ以上のTHD性能(0.002%以下)、同等の出力(180W/8Ω)、より高いS/N比を実現しています。コストパフォーマンス計算式:2,199USD ÷ 8,000USD ≈ 0.27となり、四捨五入により0.3の評価となります。PM-10は同等機能・性能の製品を約3分の1の価格で入手できることを意味します。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.7}\]

Marantzは歴史ある音響機器メーカーとして確立された保証・サポート体制を持ちます。企業としての信頼性は業界平均以上の水準にあり、技術サポートやアフターサービスの質も良好です。ただし、PM-10は既に生産終了しており、将来的な部品供給やサポート継続に不安要素があります。後継機のMODEL 10が15,000USDと大幅な価格上昇を示していることから、Marantzのリファレンス級製品の方向性にも変化が見られます。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.6}\]

PM-10の設計思想は当時としては合理的でした。Marantzが伝統的なアナログアンプ設計からClass D技術への転換を図ったことは、効率性と音質の両立を目指す合理的なアプローチでした。測定性能の向上を実際に達成しており、科学的に意味のある方向性でした。しかし、専業Class Dメーカーが既により優れた技術と価格で同等以上の性能を実現していた時期に、8,000USDという価格設定で参入したことは市場認識の甘さを示しています。現在では同等機能・性能をより安価に実現する選択肢が豊富に存在し、専用オーディオ機器としての存在意義は薄れています。また、クラスを超えた視点では、PCとDACの組み合わせで同様の透明度を低コストで代替可能ですが、統合アンプとしての利便性を考慮すると限定的です。

アドバイス

PM-10は測定性能的には優秀な製品ですが、購入を推奨することはできません。現在8,000USDの予算があれば、Purifiベースの最新Class D統合アンプを選択することで、同等以上の測定性能をより安価に、しかもより新しい技術で実現できます。中古市場で大幅に値下がりした個体(3,000-4,000USD程度)であれば検討の余地がありますが、それでも同価格帯の現行製品の方が合理的な選択となるでしょう。Marantzブランドの音響的特徴や企業哲学に特別な価値を見出す場合を除き、客観的な性能対価格比を重視するなら他の選択肢を強く推奨します。クラスを超えた代替として、予算Class Dアンプと汎用機器の組み合わせも検討可能です。

(2025.7.26)