Neumann KH-120 II
DSP搭載のニアフィールドモニター。測定性能は業界標準レベルだが、コストパフォーマンスで競合他社に劣る
概要
Neumann KH-120 IIは、ドイツの老舗オーディオメーカーNeumannが開発したDSP搭載のアクティブニアフィールドモニタースピーカーです。5.25インチウーファーと1インチツイーターを搭載し、バイアンプ構成で合計245W(ウーファー145W、ツイーター100W)の出力を持ちます。44Hz-21kHz(±3dB)の周波数特性と最大116.8dB SPLの出力能力を備え、DSPによる高精度なクロスオーバーとMathematically Modelled Dispersion(MMD)ウェーブガイド技術を採用しています。プロフェッショナルスタジオでの使用を想定した設計となっており、オプションのMA 1測定マイクを使用したルーム補正機能も利用可能です。
科学的有効性
\[\Large \text{0.6}\]周波数特性44Hz-21kHz(±3dB)は、可聴域における測定結果基準では問題レベルの境界に位置します。透明レベル達成には±0.5dB以内が求められるため、この±3dBという仕様は聴覚上の影響が現れ始める閾値です。最大SPL 116.8dBは5インチクラスのニアフィールドモニターとしては優秀な数値を示しています。公表されているTHD+N仕様は最大出力時(リミッター無効時)のものであり、通常の使用レベルにおける歪み率はこれより大幅に低い値となります。S/N比やクロストークの詳細データは公表されておらず、透明レベル達成の確認は困難です。DSPによる位相制御で120Hz-16kHz(±45°)の線形位相を実現している点は評価できますが、全体的な測定性能は業界標準レベルに留まります。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]DSP制御によるデジタルクロスオーバーとMathematically Modelled Dispersion(MMD)ウェーブガイド技術は、現代的で合理的な設計アプローチです。アナログフィルターによる位相歪みを回避し、精密な音響制御を実現しています。バイアンプ構成による145W/100Wの出力配分も適切な設計といえます。ただし、使用されている技術は業界で既に確立されたものであり、Neumannが独自開発した革新的な要素は限定的です。DSPエンジンによるルーム補正機能は付加価値として評価できますが、これも他社製品で広く採用されている技術です。測定性能の向上に寄与する技術的な取り組みは認められるものの、業界最高水準には達していません。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.7}\]評価にあたり、ルーム補正機能の実現まで含めたシステム全体のコストで比較します。本製品でルーム補正を行う場合、本体(148,500円)に加えMA 1測定システム(約41,580円)が必要です。1本あたりのシステムコストは約169,290円となります。一方、競合のAdam Audio A7V(91,300円)はSonarworks社の測定システム(マイク込で約61,160円)と連携でき、1本あたりのシステムコストは約121,880円となります。計算式は 121,880円 ÷ 169,290円 = 0.719… となり、スコアは0.7に丸められます。ルーム補正まで考慮しても、依然として競合製品にコスト面での優位性があります。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.8}\]Neumannは1928年創業のドイツの老舗オーディオメーカーとして、業界で高い信頼性を築いています。日本国内では正規代理店によるサポート体制が整備されており、2年間の標準保証が提供されます。プロフェッショナル機器メーカーとしての実績は豊富で、多くのレコーディングスタジオで採用されています。製品の故障率は業界平均を下回る水準を維持しており、長期使用における信頼性は高く評価できます。ファームウェア更新についても適切に対応されており、DSP搭載製品として必要なサポートが提供されています。ただし、一部のプロ向け機能(MA 1による自動キャリブレーション)は別売りオプションであり、完全なシステム導入には追加投資が必要です。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.8}\]DSP制御によるデジタル信号処理とアクティブクロスオーバーの採用は、現代の音響技術において極めて合理的なアプローチです。アナログフィルターの位相歪みを回避し、より精密な音響制御を実現する方向性は科学的に正しい判断といえます。MMDウェーブガイド技術による指向性制御も、ニアフィールドモニターとして適切な音響設計です。低消費電力(アイドル17W、スタンバイ0.3W)でありながら高出力を実現する設計も効率的です。ルーム補正機能の搭載により、設置環境の音響的影響を軽減する取り組みも評価できます。しかし、これらの技術は既に業界標準となっているものであり、透明レベルの音質達成に向けた革新的なアプローチは見られません。測定性能の更なる向上への取り組みが今後の課題です。
アドバイス
KH-120 IIは技術的に堅実な製品ですが、その価格設定に見合う明確な優位性を見出すのは難しい状況です。特に、ルーム補正システムの構築まで考慮すると、Adam Audio A7Vなどの競合製品がより低コストで同等機能を実現できます。純粋なコストパフォーマンスを重視するユーザーには、A7Vを含む他の選択肢を検討することを強く推奨します。ただし、Neumannブランドの信頼性や、MA 1による一体感のある純正システムでのルーム補正に価値を見出す場合は選択肢となり得ます。購入の際は、これらのコスト差と機能性を十分に比較検討してください。
(2025.7.28)