Schiit Audio Yggdrasil Plus
高価格のマルチビットDAC。競合は1/3の価格でより優れた測定性能を実現しており、コストパフォーマンスは極めて低い。
概要
Schiit Audio Yggdrasil Plusは、カリフォルニア州に拠点を置くSchiit Audioが製造するフラッグシップ級のDAコンバーターです。True Multibit™と称する独自のR2Rラダー型マルチビットアーキテクチャを採用しています。本レビューで対象とする上位版(旧称 More is Better)は2,699 USDで提供されています。公称スペックとしてTHD+N -110dB(0.0003%)、SNR 124dB以上を謳い、5年保証とモジュラー設計による将来のアップグレード対応を特徴としています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.8}\]測定性能はマスター音源の忠実な再現に必要な透明レベルを十分に満たしています。THD+N -110dB(0.0003%)は、透明性の基準である0.01%を大幅に下回っています。SNR 124dB以上、周波数特性の偏差±0.1dB、クロストーク-125dB以下といった数値も、人間の聴覚の限界を超える非常に優秀なものです。これらの測定値は、この製品が音源を色付けなく正確にアナログ信号へ変換できる能力を持つことを科学的に示しています。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]ディスクリート部品で構成されたR2Rラダー方式でTHD+N -110dBという性能を達成するには、高精度な抵抗のマッチングやノイズ対策など、高度な実装技術が求められます。他のR2R方式DACと比較しても、その性能は優れています。しかし、評価はあくまで最終的な出力性能(忠実度)に基づきます。現代の高性能なデルタシグマ方式DACは、より低コストでYggdrasil Plusを上回る-120dB以上のTHD+Nを達成しています。したがって、R2Rという制約下での技術的達成度は認められるものの、業界全体の最高水準と比較すると突出したものではなく、スコアは0.7となります。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.3}\]2,699 USDという価格に対し、Topping D90 III Sabreは899 USDで、より優れた測定性能を提供します。D90 III SabreはSINAD 123dB(THD+Nに換算して約-123dB)を達成しており、Yggdrasil Plusの-110dBを明らかに上回ります。コストパフォーマンスを計算すると、899 USD ÷ 2,699 USD ≒ 0.33となり、評価は0.3です。機能面でも同等の入出力を備えているため、価格差を正当化する要素は見当たりません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.8}\]Schiit Audioは具体的な測定スペックを公開し、5年間の長期保証を提供するなど、企業としての透明性と信頼性は高い評価を得ています。製品は米国で設計・製造されており、品質管理にも一定の信頼がおけます。ただし、サポートや保証の範囲は北米市場が中心であり、他の地域では限定的になる場合があります。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.2}\]測定データを重視し、具体的な仕様を公開する姿勢は合理的です。しかし、R2Rマルチビット技術への固執は、工学的な合理性の観点からは評価できません。現代のデルタシグマ方式が、より低コストで高い忠実度を達成できるという事実を無視し、R2R方式の「神話」に基づいて製品を差別化する戦略は、科学的アプローチよりもマーケティングを優先していると言えます。測定可能な性能劣化を引き起こすNOS(ノンオーバーサンプリング)モードを搭載している点も、純粋な忠実度の追求という目的からは逸脱しており、合理性を大きく損なっています。
アドバイス
Yggdrasil Plusは優れた測定性能を持つDACですが、その価格を考慮すると推奨はできません。Topping D90 III Sabre(899 USD)や、多機能なRME ADI-2 DAC FS(約1,100 USD)など、同等かそれ以上の音響性能を1/3以下の価格で実現する製品が存在します。R2R技術や米国製といった付加価値に3倍の価格差を正当化できるか、慎重な判断が必要です。純粋な音質(忠実度)を求めるのであれば、測定性能でこれを上回るTopping D90 III Sabreを選択することを強く推奨します。
(2025.7.25)