Sendy Audio Apollo

総合評価
2.5
科学的有効性
0.4
技術レベル
0.7
コストパフォーマンス
0.2
信頼性・サポート
0.7
設計思想の合理性
0.5

68mmプラナーマグネティックドライバーとQuad-Former技術を採用した中価格帯ヘッドホン。優れた造り込みと快適性を持つが、高音量時の歪みや強いV字型音質特性により科学的有効性に課題を抱える。

概要

Sendy Audio Apolloは、68mmプラナーマグネティックドライバーを搭載した499 USD(約7.5万円)のオープンバック型ヘッドホンです。中国のSendy Audio(Sivga Electronic Technology Co., Ltd.の子ブランド)により2022年頃に発売され、同社独自のQuad-Former技術を採用しています。CNC加工されたローズウッドハウジングと高品質なケーブルを標準装備し、16オームの低インピーダンス設計により幅広い機器での駆動を可能としています。プラナーマグネティック型としては比較的扱いやすい製品として位置付けられています。

科学的有効性

\[\Large \text{0.4}\]

測定データにおいて複数の問題が確認されています。周波数特性は強いV字型を示し、20Hz-20kHz±0.5dBの透明基準から大きく逸脱しています。特に1-2kHzの中域の落ち込みと高域の強調により、マスター音源への忠実度に問題があります。より深刻なのは、中程度から高音量時に低域で突然現れる歪みです。動的なクラシック音楽などでは強奏部分で不快な歪みが発生し、THD基準をクリアしていません。95dBの感度と16オームの低インピーダンスは駆動性の面では優秀ですが、肝心の音質面での科学的透明性に大きな問題を抱えています。

技術レベル

\[\Large \text{0.7}\]

Quad-Former技術は業界でも独自性の高いアプローチです。従来のプラナー型が片面または両面に1つずつのコイルを配置するのに対し、Apolloはダイアフラムの各面に2つずつ、計4つのコイルを配置しています。68mmという大型ドライバーサイズと相まって、理論上は力の分散と効率向上に寄与します。CNC加工されたローズウッドハウジングは共振制御に配慮されており、4芯6N OCCケーブルの標準装備も技術レベルの高さを示しています。ただし、測定結果を見る限り、この技術的投資が必ずしも音質向上に直結していない点が惜しまれます。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.2}\]

499 USD(約7.5万円)という価格に対して、同等以上の性能を持つより安価な選択肢が複数存在します。最も代表的なのはHiFiMan HE400se(110 USD、約1.7万円)で、プラナーマグネティック型として同等の機能を持ちながら歪みの問題が少なく、より中性的な音質特性を示します。計算すると、17,000円 ÷ 75,000円 ≒ 0.22となり、コストパフォーマンススコアは0.2となります。同価格帯のHiFiMan Edition XS(499 USD)と比較しても、技術的優位性や音質面での差別化が不十分です。高品質な造り込みは評価できますが、純粋な性能対価格比では厳しい評価にならざるを得ません。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.7}\]

Sendy Audioは2015年設立の比較的新しい企業ですが、親会社Sivgaを含めて品質問題の報告は少なく、製品の信頼性は良好です。保証期間や修理体制についても業界標準以上のサポートを提供しているとの評価が多く見られます。4.4mmバランス端子を標準装備するなど、ユーザーの利便性にも配慮されています。ただし、新興メーカーであることから長期的な事業継続性については不透明な面もあり、確立されたメーカーと比較すると若干の不安要素は残ります。製品自体の造りは堅牢で、長期使用に耐える品質を備えています。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.5}\]

プラナーマグネティック技術の採用とQuad-Former設計は技術的合理性があります。しかし、最終的な音質チューニングにおいて強いV字型特性を採用した判断は、科学的な高忠実度再生の観点から疑問です。特に中域の意図的な落ち込みは、ボーカルや多くの楽器の基音域に影響を与えます。また、高音量時の歪み発生は設計上の根本的な問題を示唆しており、単純な音量調整では解決できません。一方で、16オームの低インピーダンス設計により幅広い機器での使用を可能にした点は実用性重視の合理的判断です。全体として、技術的ポテンシャルは高いものの、最終的な製品としての方向性に改善の余地があります。

アドバイス

Sendy Audio Apolloは優れた造り込みと快適な装着感を持つ製品ですが、499 USDという価格帯では他により科学的に優秀な選択肢が存在します。特にHiFiMan HE400se(110 USD)は同じプラナーマグネティック技術でありながら、歪みが少なく中性的な音質特性を持ち、圧倒的なコストパフォーマンスを実現しています。もし499 USDの予算があるなら、HiFiMan Edition XSの方が技術的優位性と音質面での満足度が高いでしょう。Apolloの購入を検討する場合は、V字型の音質特性を好む方、または特にローズウッドハウジングの美観を重視する方に限定されます。ただし、高音量での使用を想定する場合は歪みの問題を十分に認識した上で判断することを推奨します。科学的に優秀な音質を求める方には、他の選択肢を強くお勧めします。

(2025.7.28)