Sendy Audio Peacock
高品質な外観を持つが、音響測定性能に深刻な課題を抱える平面磁界型ヘッドホン。同等以上の性能を持つ製品が5分の1以下の価格で存在し、コストパフォーマンスは極めて低い。
概要
Sendy Audio Peacockは、Sivga AudioのサブブランドであるSendy Audioが手がけるフラッグシップ・平面磁界型ヘッドホンです。88mmの大口径ドライバーと、振動板の両面にコイルを配置する「Quad-Former」技術を特徴としています。木材、レザー、金属を組み合わせた工芸品のような外観と、8芯6N OCC銅線の付属ケーブルで高級感を演出しています。仕様はインピーダンス50Ω、感度103dB、周波数特性20Hz~40kHz、重量は約578gです。
科学的有効性
\[\Large \text{0.2}\]測定データは、音源忠実性の観点から深刻な課題を示しています。周波数特性は、4kHz、6kHz、10kHz付近に顕著なディップ(落ち込み)があり、中高域の再現性が不正確です。さらに問題なのは高調波歪率(THD)で、特に低域では5%を超える値が観測されています。これはヘッドホンにおける問題レベル(0.5%)を遥かに超えており、音の濁りや不正確さの直接的な原因となります。インピーダンス50Ω、感度103dBという仕様は駆動しやすいことを示しますが、基本的な音響性能がマスター音源を忠実に再現するレベルには達していません。
技術レベル
\[\Large \text{0.6}\]振動板の両面に4つのコイル(各面2つ)を配置するQuad-Former技術は、磁界内の振動板をより均一に駆動し、歪みを低減することを狙った設計です。88mmという大口径の平面磁界型ドライバーの採用や、木材と金属を組み合わせた精緻な筐体設計は、製造技術レベルの高さを示しています。8芯6N OCC銅ケーブルや4.4mmバランス端子への対応など、付属品にも配慮が見られます。しかし、これらの技術的アプローチが、最終的な測定性能の向上、特に歪率の低減に結びついていないのが現状です。革新的な技術というよりは、既存技術を丁寧に組み合わせたものと言えます。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.2}\]Peacockの価格220,000円に対し、はるかに安価で、かつ測定性能で全面的に上回る製品が存在します。例えば、同じ平面磁界型ヘッドホンであるHifiman Sundaraは、よりフラットな周波数特性と10倍以上低い歪率を実現しながら、価格は52,800円です。コストパフォーマンスは「52,800円 ÷ 220,000円 = 0.24」という計算に基づき、0.2と評価せざるを得ません。Peacockの木材を使用した外観や付属品の品質を考慮しても、音響性能における価格差を正当化することは困難です。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.5}\]Sendy Audioは2019年頃にSivga Audioのサブブランドとして設立された比較的新しいメーカーです。そのため、製品の長期的な信頼性や耐久性に関する実績はまだ限定的です。日本国内では正規代理店による1年間の保証とサポートが提供されていますが、これは業界の標準的な水準です。ファームウェア更新などを必要としない製品であり、サポート体制は平均的と評価できます。新興ブランドであることの不確実性を考慮し、評価は0.5とします。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.5}\]製品の設計思想には疑問が残ります。高価な木材やレザーといった素材で外観の美しさを追求する一方で、音質の中核をなす周波数特性や歪率といった基本的な測定性能が、現代の平面磁界型ヘッドホンの技術水準に達していません。特に高い歪率は、科学的な音質改善よりも、主観的な「音作り」や外観デザインを優先した結果である可能性を示唆しています。220,000円という価格設定に見合う客観的な性能的優位性が示されておらず、物量投入が測定可能な音質改善に直結していない点で、設計の合理性は高いとは言えません。
アドバイス
Sendy Audio Peacockは、工芸品のような美しいデザインと高級な素材感を所有することに価値を見出すユーザー向けの製品です。しかし、音源への忠実性や純粋な音響性能を最優先するならば、購入は慎重に検討すべきです。同じ予算であれば、測定性能で圧倒的に優れる他社製品が多数存在します。例えば、より安価なHifiman Sundaraや、予算を上げてHifiman Arya Organicなどを選ぶ方が、客観的な音質においてはるかに合理的な選択となります。購入を検討する場合は、必ず他の高性能なヘッドホンと比較試聴し、その音質と価格のバランスが自身の価値観と合致するかを確認することを強く推奨します。
(2025.7.28)