Sennheiser HD 660S2
HD 660Sの正統進化モデル。技術的改良は評価できるが、同等性能のHD 6XXが199ドルで入手可能なため、600ドルという価格設定は割高
概要
Sennheiser HD 660S2は、2023年に発表されたHD 660Sの後継機種です。38mm高性能ダイナミックトランスデューサーに超軽量アルミニウムボイスコイルを組み合わせ、インピーダンスを150Ωから300Ωに変更しています。周波数特性は8Hz〜41.5kHzと幅広く、THDは1kHzで0.04%未満を実現しています。重量は260gで、Sennheiserの6xxシリーズの伝統的な音響設計思想を受け継ぎながら、低域の拡張と高域の精密性向上を図った製品です。
科学的有効性
\[\Large \text{0.7}\]測定結果では良好な性能を示しています。THDは1kHzで0.04%未満と優秀で、透明レベル(0.01%以下)には届かないものの問題レベル(0.1%以上)を大幅に下回ります。周波数特性は8Hz〜41.5kHzと広帯域ですが、20Hz以下でのロールオフが確認されており、完全な透明性は達成していません。S/N比の具体的数値は公表されていませんが、300Ωという高インピーダンス設計により、適切なアンプとの組み合わせで良好な結果が期待できます。測定された周波数レスポンスは50Hz〜1kHzまで直線的で、サブベース域での軽微なロールオフと上位中域でのスロープが見られます。
技術レベル
\[\Large \text{0.8}\]HD 660Sからの技術的進歩が確認されます。インピーダンスを300Ωに変更し、より軽量なボイスコイルを採用することで、ダンピング特性と制動力を向上させています。共振周波数も110Hzから70Hzに低下し、より柔軟なサラウンド設計により低域の拡張を実現しました。5kHz以上での応答特性も改善され、ピークと谷の差が小さくなり、よりスムーズな特性を達成しています。40Hzスクエア波測定では適切なダンピングが確認され、100μsインパルス応答では最小限のリンギングで良好な制動特性を示しています。これらは業界標準を上回る技術的達成度を示しています。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.3}\]600ドルという価格に対し、「Drop + Sennheiser HD 6XX」が199ドルで同等の300Ωインピーダンス、0.05%のTHD、同様の音響特性を提供しています。計算式:199ドル ÷ 600ドル = 0.332。四捨五入により0.3となります。HD 6XXはHD 650の設計を基にしており、測定データでもHD 650と実質的に同一の性能を示します。周波数特性、THD、インパルス応答の測定において有意な差異は確認されず、音響的に同等の性能をより安価に提供しています。HD 660S2の技術的改良は評価できますが、ユーザーが得られる実質的な音質向上は限定的で、価格差を正当化するほどの性能差は認められません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.9}\]Sennheiserは業界最高水準の信頼性とサポート体制を提供しています。2年間の保証期間は標準的ですが、修理体制とパーツ供給体制は非常に充実しています。6xxシリーズは長期間にわたり製造されており、部品供給の継続性も実証されています。ケーブルは着脱式で交換可能、パッドなどの消耗品も容易に入手できます。カスタマーサポートの対応品質も高く、技術的な問い合わせに対する回答も的確です。故障率も業界平均を下回っており、長期使用においても安定した性能を維持することが期待できます。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.8}\]HD 660Sからの改良点は科学的根拠に基づいており、合理的な設計思想が確認できます。300Ωへのインピーダンス変更は制動力向上に寄与し、軽量ボイスコイルは応答性改善につながっています。共振周波数の低下とサラウンドの柔軟性向上は低域拡張の物理的根拠があり、5kHz以上の特性改善も測定で裏付けられています。ただし、これらの改良が人間の聴覚に与える実質的影響は限定的で、「Drop + Sennheiser HD 6XX」のような既存の同等製品との差別化に苦慮している面があります。専用オーディオ機器としての存在意義は維持されているものの、価格対効果の観点では改善の余地があります。
アドバイス
HD 660S2は技術的に優秀な製品ですが、購入前に「Drop + Sennheiser HD 6XX」との比較検討を強く推奨します。両者の音質差は聴覚上極めて微細で、HD 6XXの199ドルという価格は圧倒的なコストパフォーマンスを提供します。600ドルという予算があるなら、HD 6XXと高品質なDAC/アンプの組み合わせを検討することで、より大きな音質向上が期待できます。HD 660S2を選ぶべきは、最新の技術的改良に価値を見出し、価格差を受け入れられる場合に限られます。既にHD 650やHD 6XXを所有している場合、アップグレードの必要性は低いと判断されます。初回購入なら確実にHD 6XXから始めることを推奨します。
(2025.7.21)