Sennheiser HD 800 S

参考価格: ? 269850
総合評価
2.8
科学的有効性
0.8
技術レベル
0.7
コストパフォーマンス
0.1
信頼性・サポート
0.6
設計思想の合理性
0.6

Sennheiser HD 800 Sは、独創的な56mmリングラジエーターを搭載した開放型ヘッドホンの名機です。測定性能は優秀ですが、269,850円という価格は、より周波数特性の正確さで勝るHiFiMan Sundara(35,250円)と比較してコストパフォーマンスが極めて低いです。設計には合理性が見られますが、総合的には価格が性能に見合っていない製品です。

概要

Sennheiser HD 800 Sは、ドイツの老舗音響メーカーSennheiserが2015年にリリースしたフラッグシップ開放型ヘッドホンです。56mmリングラジエーターダイナミックドライバーを搭載し、300Ωの高インピーダンス設計により、高品質なヘッドホンアンプとの組み合わせを前提とした設計となっています。重量330g、周波数特性4-51,000Hzという仕様で、リファレンス用途を想定した製品として位置づけられています。Sennheiserブランドの歴史と伝統を背負う製品として、多くのオーディオファイルから注目を集めています。

科学的有効性

\[\Large \text{0.8}\]

HD 800 Sの測定性能は透明レベルに達しています。THD(全高調波歪率)は0.02%(1kHz、1V RMS)という優秀な値を示し、ポリシーの透明レベル基準である0.01%以下には届かないものの、問題レベルの0.1%を大幅に下回っています。周波数特性は4-51,000Hzと広帯域で、RTINGSの測定では94dB/SPLおよび104dB/SPLにおいて低い高調波歪率を示しています。S/N比は測定値により変動がありますが、一般的に100dB以上の値を示し透明レベルに達しています。300Ωという高インピーダンス設計により、適切なアンプとの組み合わせ時に優秀な測定結果を示します。グループディレイ性能も良好で、低域の位相特性は良好です。

技術レベル

\[\Large \text{0.7}\]

56mmリングラジエーターダイナミックドライバーは技術的に興味深い設計です。従来のダイナミックドライバーとは異なり、振動板の中央部が固定されており、リング状の部分のみが駆動される構造となっています。これにより分割振動を抑制し、より線形な動作を実現しています。300Ωの高インピーダンス設計も、ノイズ耐性向上と駆動回路からの影響軽減に寄与しています。ただし、この技術は2015年の開発当時から大きな進歩はなく、現在では平面磁界型ドライバーなどの新技術が普及している中で、相対的な技術優位性は低下しています。設計の独自性は認められるものの、現在の業界最高水準と比較すると技術レベルは中程度に留まります。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.1}\]

コストパフォーマンスは極めて低い評価となります。HD 800 Sの日本市場価格は269,850円ですが、同等以上の測定性能を持つHiFiMan Sundaraが35,250円で入手可能です。計算式:35,250円 ÷ 269,850円 = 0.131となり、四捨五入で0.1のスコアとなります。HiFiMan Sundaraは平面磁界型ドライバーを採用し、THDやS/N比で同等性能を示しつつ、周波数特性の素直さ(6kHz付近のピークがない点)ではHD 800 Sを上回る側面もあります。HD 800 Sが持つ広大な音場という長所はありますが、これは客観的な測定性能で価格差を正当化する要素にはなり得ません。ブランド価値を除いた純粋な性能対価格比で、極めて割高な選択肢です。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.6}\]

Sennheiserは歴史ある大手メーカーであり、信頼性・サポートは業界の標準レベルを満たしています。保証期間は標準的な2年間で、修理体制も整っています。HD 800 Sはロングセラーのフラッグシップモデルであり、交換用イヤーパッドやケーブルといった主要な保守部品の入手性が現在でも良好な点は評価できます。しかし、特別に長期の保証が提供されるわけではなく、あくまで業界平均の範囲内での評価に留まります。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.6}\]

設計思想には一定の合理性が見られます。特徴的な56mmリングラジエータードライバーは、大口径ドライバーにおける分割振動を抑制し、高周波特性を改善するという明確な工学的目的を持った独創的な技術です。また、300Ωの高インピーダンス設計も、アンプの出力インピーダンス特性に左右されにくい安定した駆動を目指した合理的なアプローチです。しかし、これらの技術が生み出す性能は、現代においては平面磁界駆動などのよりシンプルな構造で、かつ低コストな技術によって同等以上が達成されています。したがって、その設計思想は科学的ですが、現代における最善のコスト対効果を持つアプローチとは言えません。

アドバイス

購入検討者には、まずHD 800 Sよりも圧倒的にコストパフォーマンスに優れるHiFiMan Sundara(35,250円)を試すことを強く推奨します。Sundaraは、歪率やS/N比でHD 800 Sに匹敵し、周波数特性の正確性ではより優れている可能性がありながら、8分の1以下の価格で入手できます。HD 800 Sの最大の魅力である広大な音場表現に、その大きな価格差分の価値を見出せるかを冷静に判断する必要があります。Sennheiserブランドや歴史的価値を重視しない限り、純粋な性能とコストのバランスで考えた場合、Sundaraがより合理的な選択となります。高価なヘッドホンアンプが必須となる点も、システム全体のコストを考慮する上で注意が必要です。

(2025.7.18)