Shure SE846 Gen2

参考価格: ? 116600
総合評価
3.3
科学的有効性
0.6
技術レベル
0.8
コストパフォーマンス
0.3
信頼性・サポート
0.9
設計思想の合理性
0.7

Shure SE846 Gen2は高度な4ドライバーBA構成と優れた遮音性を持つプロ仕様イヤホンですが、現代の同等性能製品と比較して高価であり、コストパフォーマンスに課題があります。

概要

Shure SE846 Gen2は、2013年に初代が登場した同社フラッグシップインイヤーモニターの第2世代モデルです。4基のカスタム設計バランスドアーマチュアドライバーを3ウェイ構成で搭載し、専用ローパスフィルターによる深い低域再生を実現しています。最大37dBの遮音性能と4種類の音響フィルター(バランス、ウォーム、ブライト、エクステンデッド)により、プロフェッショナル用途から一般リスニングまで幅広い用途に対応します。日本オーディオ協会のハイレゾ認証も取得しており、1925年創業のShureブランドの技術的蓄積が反映された製品です。

科学的有効性

\[\Large \text{0.6}\]

SE846 Gen2の測定性能は限定的な評価となります。周波数特性15Hz-20kHzは一般的なヘッドホン基準(±3dB)を満たしており、感度114dB SPL/mW、インピーダンス9Ohmと駆動しやすい設計です。特筆すべきは最大37dBのパッシブ遮音性能で、これは理想的レベルに近く、外部ノイズの除去による実質的な音質向上に寄与します。しかし、THD(全高調波歪率)やSNR(信号対雑音比)の具体的な測定データが公開されておらず、透明レベルの音質達成を科学的に検証できません。これらの重要な指標の欠如は、科学的有効性の評価において大きな制約となります。4つの音響フィルターによる周波数特性の調整機能は、ユーザーの好みに応じた最適化を可能にしますが、根本的な音質改善効果は限定的です。

技術レベル

\[\Large \text{0.8}\]

SE846 Gen2は高い技術レベルを示しています。4基のカスタム設計バランスドアーマチュアドライバーを3ウェイクロスオーバーで統合した設計は、各ドライバーの特性を活かした周波数分担を実現しています。特に独自のローパスフィルター技術は、小型BAドライバーでありながら深い低域再生を可能にする革新的なアプローチです。第2世代では新たなエクステンデッドフィルターが追加され、4kHz-12kHz帯域のより精密な周波数コントロールを実現しました。DLP 3Dプリンティング技術による筐体設計や、取り外し可能な64インチケーブルなど、プロフェッショナル用途を想定した堅牢な構造も技術的完成度の高さを示しています。ただし、現在の最新技術水準と比較すると、一部のアプローチに改善の余地があります。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.3}\]

SE846 Gen2のコストパフォーマンスは低い評価となります。本製品の最大の特徴である最大37dBの優れた遮音性能を考慮すると、同等以上の遮音性(35-42dB)と優れた音響性能を持つEtymotic ER4XR(市場価格約40,000円)が適切な比較対象となります。現在の市場価格約116,600円に対し、計算式は 40,000円 ÷ 116,600円 = 0.343 となり、SE846 Gen2は約3倍の価格で同等の中心機能を提供していることになります。遮音性を重視しない場合は、さらに安価なTruthear Nova(約23,000円)や7Hz Salnotes Zero(約3,000円)といった選択肢も存在しますが、これらは遮音性能でSE846 Gen2に及ばないため、直接の比較対象とはなりません。プロ向けの堅牢性を考慮しても、価格差を正当化することは困難です。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.9}\]

Shureは1925年創業の老舗プロオーディオメーカーとして、業界最高水準の信頼性とサポート体制を提供しています。SE846シリーズは2013年の初代発売以来、プロフェッショナル環境での使用に耐える堅牢性が実証されており、長期間の使用における故障率は業界平均を大幅に下回ります。グローバルな販売・サービスネットワークにより、世界各地で迅速な修理対応が可能です。取り外し可能ケーブル設計により、最も故障しやすい部分の交換が容易で、製品寿命の延長に寄与しています。ファームウェア更新が不要なパッシブ設計のため、長期的な機能陳腐化のリスクも最小限です。保証期間や修理費用も業界標準を上回る充実度を提供しています。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.7}\]

SE846 Gen2の設計思想は概ね合理的ですが、市場環境への適応に課題があります。測定可能な音響性能の向上を目指したBAドライバー配置、科学的根拠に基づく周波数特性の最適化、客観的な遮音性能の追求など、基本的なアプローチは極めて合理的です。4つの音響フィルターによるカスタマイゼーション機能も、異なる音響環境や用途への適応を可能にする論理的な解決策です。しかし、専用IEMとしての存在意義が、現代の高性能かつ低価格な代替製品の登場により揺らいでいます。特に一般消費者にとって、同等の音響性能を大幅に安価で実現できる選択肢が存在する現状では、高価格設定の合理性に疑問が生じます。プロフェッショナル用途における耐久性や長期サポートの価値は認められるものの、音質向上のコストパフォーマンスという観点では非合理的な側面が目立ちます。

アドバイス

SE846 Gen2の購入を検討される方は、用途と予算を慎重に検討することをお勧めします。プロフェッショナルな音楽制作や舞台での使用、長期間の酷使に耐える信頼性が最優先の場合、Shureブランドの実績と充実したサポート体制は現在価格(約116,600円)に見合う価値を提供します。しかし、遮音性を最優先としない一般的なリスニング用途であれば、Truthear Nova(約23,000円)などで十分な音質を得ることができ、SE846 Gen2への投資は推奨できません。予算をさらに抑えたい場合、7Hz Salnotes Zero(約3,000円)でも高品質な音楽体験が可能です。SE846 Gen2を選ぶべきユーザーは、「最高の音質」ではなく「プロ仕様の信頼性と長期サポート」に価値を見出す方に限定されます。音質向上のみを目的とする場合、現代の高コストパフォーマンス製品を選択し、浮いた予算を他のオーディオ機器に投資する方が合理的です。

(2025.7.24)