Sony MDR-EX1000
大型16mmドライバとリキッドクリスタルポリマー技術を特徴とする高級イヤホンだが、+6dBの5.5kHzピークによる音質問題と低いコストパフォーマンスが致命的
概要
ソニー MDR-EX1000は、2011年に発売された同社のフラッグシップインイヤーモニターです。16mmという大型ダイナミックドライバとリキッドクリスタルポリマー(LCP)振膜、マグネシウム製ハウジングを採用した高級機として話題を集めました。現在は生産終了となっており、中古市場では状態により11,500円から28,130円で取引されており、平均的な市場価格は約18,800円です。オーディオファイルの間では一定の支持を得ているものの、科学的な音響性能の観点では多くの問題を抱えています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.4}\]測定データによると、周波数特性は3Hz-30,000Hzの広域をカバーするものの、重大な音質劣化要因が存在します。最も深刻な問題は5.5kHzにおける+6dBのシャープなピーク(Q=8)で、これはシンバル音の再生において著しい刺激音を発生させます。9kHz付近にも追加のピークが確認されており、V字型の周波数特性を示します。一方、高調波歪率は1%未満と低く抑えられており、インピーダンス32Ω、感度108dB/mWという仕様は標準的です。しかし12kHz以上での急激なロールオフにより、エア感の欠如も指摘されています。科学的に可聴である5.5kHzピークは明らかな音質劣化要因であり、透明レベルの音質達成には程遠い状況です。
技術レベル
\[\Large \text{0.8}\]16mmという大口径ダイナミックドライバは、IEMとしては最大級のサイズを誇ります。リキッドクリスタルポリマー振膜は高い剛性と内部損失を持ち、ソニーが振膜素材として最良と考える材料です。ネオジウム磁石(440kJ/m³)と「横磁界プレス製造法」により磁力を向上させています。マグネシウムハウジングと7N-OFC Litzケーブルの採用など、材料選択は先進的です。手作業による音響材料の調整など、製造工程にも拘りが見られます。技術的なアプローチは業界でも先進的な部類に属しますが、結果として生み出された音響特性の問題により、技術力の有効活用に課題が残ります。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.4}\]中古市場平均価格約18,800円に対し、同等以上の音質を提供するTRUTHEAR x Crinacle ZERO: REDが8,165円(55USD、現在の為替レート換算)で入手可能です。コストパフォーマンス計算:8,165円 ÷ 18,800円 = 0.43となり、中低評価となります。ZERO: REDはデュアルダイナミックドライバ(10mm + 7.8mm)をMDR-EX1000の単一16mmドライバと比較して使用していますが、5.5kHzピークのない優れた周波数特性を実現しており、優れたユーザー体験を提供します。内部構成は異なりますが、現代のIEM評価においてはドライバトポロジーの違いよりもユーザーが実際に体験する音質での優位性が重要です。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.3}\]生産終了により公式サポートは基本的に終了しています。ケーブル着脱式であるため断線時の交換は可能ですが、本体故障時の修理対応は期待できません。中古市場での流通が主となるため、個体差や経年劣化のリスクも存在します。ソニーというブランドの信頼性は高いものの、現行サポート体制がない状況では、購入時点での製品状態に大きく依存することになります。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.2}\]大型ドライバと先進材料の採用というアプローチは理論的には合理的ですが、実際の周波数特性に現れた5.5kHzピークは明らかな設計上の問題です。オフアクシスドライバー配置により生じるドライバー共振が原因とされており、これはソニーのIEM製品に共通して見られる問題でもあります。物理的制約のあるIEMカテゴリにおいても、現代的な設計手法や測定技術を用いればより良好な周波数特性は実現可能であり、当製品の設計思想は非合理的側面が大きいと言わざるを得ません。科学的根拠に基づく音質改善よりも、技術的な話題性を重視した開発方針が推察されます。
アドバイス
科学的音質観点から、本製品の購入は推奨できません。+6dB(Q=8)という測定で確認された5.5kHzピークによる音質劣化は明確であり、現在の中古市場平均18,800円でも音質対価格比は不十分です。代替案として、TRUTHEAR x Crinacle ZERO: REDが8,165円(55USD)で、より優れた周波数特性を実現しています。ドライバトポロジーの違い(デュアルDD vs 単一16mmDD)よりも、ユーザーが実際に体験する音質での優位性が重要です。既に所有されている方は、イコライザーによる5.5kHz帯域の-6dB減衰調整(Q=8)により音質改善が可能です。オーディオファイルとしてのコレクション価値や、ソニーの技術史的意味での所有意義を重視される場合を除き、現代的な代替製品への移行を強く推奨します。
(2025.7.22)