soulnote D/A Converter D-3

総合評価
2.5
科学的有効性
0.9
技術レベル
0.5
コストパフォーマンス
0.1
信頼性・サポート
0.7
設計思想の合理性
0.3

ES9038PRO搭載の超高級DAC。基本性能は透明レベルを達成しているものの、同等性能を持つ製品の約17倍という価格設定でコストパフォーマンスは極めて低い。外部クロック必須の設計思想も合理性に疑問が残ります。

概要

soulnote D/A Converter D-3は、日本のsoulnoteが開発した最上級D/Aコンバーターです。ES9038PROチップを各チャネルに2個ずつ、計4個搭載したデュアルモノラル構成を採用しています。大電流出力や低ジッター性能を特徴とし、外部クロックジェネレーターX-3(別売)との組み合わせでのみ動作する特殊な設計となっています。価格はD-3本体が1,650,000円、動作に必須のX-3が748,000円で、システム合計価格は2,398,000円(いずれも税込)という超高級価格帯に位置します。

科学的有効性

\[\Large \text{0.9}\]

D-3の科学的有効性は非常に高い評価となります。核となるDACチップES9038PROは、単体でTHD+Nが-122dB、ダイナミックレンジが140dB(モノラルモード時)という、人間の聴覚の限界を遥かに超える「透明レベル」の性能を持っています。これにより、周波数特性、S/N比、歪率など、音質に関わるほぼすべての測定項目において理想的な数値を達成しています。soulnoteが謳う大電流出力や低ジッター性能が、この透明レベルの性能からさらに聴覚上の改善をもたらすかは科学的に見て限定的ですが、基本性能がマスター音源に対して極めて忠実であることは間違いありません。

技術レベル

\[\Large \text{0.5}\]

D-3の技術的な実装は評価できます。左右チャンネルを電気的・物理的に分離したデュアルモノラル構成、3つの独立した大容量トロイダルトランス、信号切り替えに使われるガラス管密封リードリレーなど、物量を投入した設計は高度です。また、DACチップの非同期サンプルレートコンバーター(ASRC)をバイパスし、外部クロックと同期させる設計思想も独創的です。しかし、音質の根幹をなすのは既製のES9038PROチップであり、これらの付加技術が測定性能の向上に明確に寄与しているかは不明です。同等の性能はよりシンプルな回路でも達成可能なため、技術レベルは業界平均水準と評価します。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.1}\]

D-3のコストパフォーマンスは極めて低いと言わざるを得ません。比較対象として、同じES9038PROチップを搭載し、測定上同等以上の性能を持つTopping D90SE(実売価格 139,392円)が存在します。D-3は動作に必須のX-3クロックジェネレーターを含めるとシステム総額は2,398,000円です。コストパフォーマンスを計算すると「139,392円 ÷ 2,398,000円 ≒ 0.058」となり、四捨五入してスコアは0.1となります。つまり、同等以上の基本性能を約17分の1の価格で実現できる代替品が存在します。この価格差を正当化する客観的な性能差は見出せません。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.7}\]

soulnoteは日本のオーディオメーカーであり、製品の信頼性やサポート体制は良好です。高級機らしく丁寧な作り込みと品質管理が期待でき、保証や修理サービスも国内で適切に受けられます。ただし、外部クロックが必須という構成は、単体製品に比べて故障点が増え、運用の複雑さを増す要因となります。また、超高価格帯の製品であるため、長期的な部品供給やサポートの継続性には注意が必要です。業界水準としては良好ですが、設計の複雑さを考慮して評価を若干下げています。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.3}\]

D-3の設計思想には合理性の面で疑問があります。外部クロックジェネレーターがなければ動作しない設計は、ユーザーの利便性を著しく損ないます。また、既に単体で透明レベルの性能を持つES9038PROチップに対し、これほど高価で複雑な実装を施す必然性も不明確です。現代のオーディオ技術が目指す「測定可能な性能を、より低コストで合理的に実現する」という方向性とは逆行しています。同等の性能がはるかに安価な汎用機器の組み合わせで実現できる以上、オーディオ専用機としての存在意義を性能面で説明することは困難です。

アドバイス

D-3の購入を検討する際は、慎重な判断が求められます。豪華な物量投入と独自の設計思想は所有欲を満たすかもしれませんが、客観的な性能評価では、同じDACチップを搭載した遥かに安価な製品との間に明確な差は認められません。240万円近い予算があれば、Topping D90SEのような高性能DACに、最高クラスのプリアンプ、パワーアンプ、スピーカーを組み合わせた最高水準のシステムを構築することが可能です。音質の向上を純粋に追求するのであれば、予算をシステム全体の最適化に振り分ける方が賢明です。本製品は、そのブランドや希少性に特別な価値を見出す愛好家向けの製品と言えるでしょう。

(2025.7.22)