Tanchjim Force
Tanchjim x Effect Audio共同開発の先進的なIEM。しかし、音響性能で同等以上の選択肢が1/3以下の価格で存在するため、コストパフォーマンスに極めて大きな課題を持つ。
概要
Tanchjim ForceはTanchjimとEffect Audioの共同開発による279.99 USDのデュアルダイナミックIEMです。8.2mmと10mmの異なるサイズのダイナミックドライバーを搭載し、オープンバック設計という珍しい構造を採用しています。2015年設立のTanchjimは中国の高品質IEMブランドとして確固たる地位を築いており、OxygenやOriginなどの人気モデルで知られています。Forceは同社のDMT4 Ultra技術を基盤とし、ベリリウムコーティングとチタンコーティングを施したドライバーによる高精度な音響制御を目指した製品です。
科学的有効性
\[\Large \text{0.7}\]THD 0.036% @1kHz 94dBという歪率性能は良好ですが、業界最高水準には届きません。17Ω±10%のインピーダンス、120dB/Vrmsの感度は標準的な範囲内にあります。8Hz-48kHzの周波数特性は幅広いレンジをカバーしますが、フラットネスについての詳細データは確認できませんでした。オープンバック設計は音場拡張と内部反射の低減に寄与する可能性がありますが、遮音性の犠牲を伴います。HPFD-Seg周波数分割技術により低歪率を実現していると主張されていますが、これらの測定値は業界の透明レベル基準を満たすものの、世界最高水準とは言えません。
技術レベル
\[\Large \text{0.8}\]8.2mmと10mmのデュアルダイナミック構成は周波数帯域の最適分担を図る合理的なアプローチです。DMT4 Ultra技術を基盤とした自社開発ドライバー、ベリリウムコーティング中高域ドライバーとチタンコーティング低域ドライバーの組み合わせは技術的に先進的です。オープンバック設計における微細スチールメッシュによる音響制御、HPFD-Seg周波数領域クロスオーバー技術など、独自の工学的アプローチが見られます。Effect Audioとのコラボレーションにより高純度銀メッキ単結晶銅ケーブルとモジュラー接続システムを実現しており、総合的な技術レベルは業界の上位水準に位置します。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.3}\]279.99 USDという価格に対し、同等以上の音響性能(特に優れた周波数特性と低歪率)を持つTruthear Hexaが79.99 USDで存在します。コストパフォーマンスは 79.99 USD ÷ 279.99 USD = 0.286
となり、極めて低い評価です。Hexaは1DD+2BAのハイブリッド構成ですが、ユーザーにとって最終的な音響性能に差はなく、むしろForceの価格の3分の1以下で同等以上の忠実度を実現しています。Forceの独自の技術やEffect Audioとのコラボ価値を考慮しても、純粋な性能対価格比では全く競争力がなく、コストパフォーマンスは著しく低いと言わざるを得ません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.6}\]Tanchjimは2015年設立以来、Oxygenなどの評価の高い製品をリリースし、オーディオファイル界で安定した評価を獲得しています。40名以上の開発チームを有し、日本の音響企業での経験を持つエンジニアが在籍するなど、技術基盤は堅実です。しかし中国系新興ブランドとしては信頼性の実績が限定的で、長期的な修理サポート体制や部品供給については不透明な部分があります。国際的なサポート体制の詳細も公開情報からは判断困難であり、業界平均水準の信頼性・サポートレベルと評価されます。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.8}\]オープンバック設計はIEMとしては珍しいアプローチですが、音場拡張と内部反射低減という明確な音響的根拠があります。デュアルダイナミック構成による周波数帯域の専用分担、異なるコーティング材料の使い分けなど、測定性能向上に直結する合理的な設計判断が見られます。DMT4 Ultra技術の継続的発展、Effect Audioとの専門分野別コラボレーションは、それぞれの強みを活かした効率的なアプローチです。HPFD-Seg技術による精密な周波数分割制御も科学的根拠に基づいた取り組みです。オカルト的要素を排し、測定可能な性能改善を追求する姿勢は高く評価できます。
アドバイス
Tanchjim Forceは技術的に興味深い製品ですが、購入は全く推奨できません。その理由は、同等以上の音響性能を持つTruthear Hexaがわずか79.99 USDで入手可能だからです。Forceのオープンバック設計やEffect Audioとのコラボレーションに特別な価値を見出さない限り、約200 USDの価格差を正当化することは困難です。純粋な音響性能を求めるのであれば、Truthear Hexaが圧倒的に合理的な選択肢となります。Kiwi Ears KE4 (109 USD) など、他にも安価で高性能な代替品は多数存在します。Forceを選択するのは、その独自の技術的アプローチやデザインに、性能差を度外視した強い魅力を感じる場合に限られるでしょう。
(2025.7.31)