Tanchjim Zero
極めて低い市場価格でニュートラル志向のサウンドを実現したダイナミック型IEM。測定性能は平均的だが、同等機能の製品群では最も低い価格水準を実現している。
概要
Tanchjim Zeroは、中国のオーディオメーカーTanchjimが開発したインイヤーモニター(IEM)です。10mmコンポジット振動板を採用したシングルダイナミックドライバー構成で、DMT 4技術により最適化された音響設計を特徴とします。市場価格15 USD(2025年7月時点)という水準ながら、ニュートラルな音質傾向と分析的なサウンドプレゼンテーションを実現しています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.6}\]実測データによると、THD(全高調波歪率)は1kHz 94dB SPLで0.5%未満と報告されており、IEM製品カテゴリの問題レベル(0.5%以上)は回避できていますが、優秀レベル(0.05%以下)には達していません。感度118dB/Vrms、インピーダンス32Ω±10%、周波数応答範囲7-50kHzという基本仕様は実用的な水準にあります。ただし、低音域でのテクスチャ不足や解像度の限界が指摘されており、透明レベルには到達していないと判断されます。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]DMT 4ダイナミックドライバー技術により、超細繊維サスペンションとベリリウムコート振動板を採用したコンポジット設計を実現しています。有限要素解析(FEA)ソフトウェアを用いた導波管構造の最適化、磁気回路の強化、サスペンション品質の調整など、相応の技術投入が認められます。イタリア製SATTIフィルターの採用やナノマテリアルコーティングによる防塵防水機能も技術的工夫として評価できますが、業界最高水準と比較すると限定的です。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{1.0}\]市場価格15 USD(2025年7月時点)は、同等の機能・性能を持つニュートラル志向IEMの中で最も低い水準にあります。主要競合製品であるMoondrop Chu II(19 USD)や7Hz Salnotes Zero(23 USD)との比較において、その価格優位性は明確です。この価格で一定水準のニュートラルサウンドを提供している点は、コストパフォーマンスを最大化しています。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.6}\]筐体はABS樹脂とアルミニウム合金フェイスプレートで構成され、基本的な耐久性を備えています。しかし、ケーブルが着脱不可のため、断線時の修理は困難です。新興メーカーであるため、長期的な製品サポート体制や保証対応の実績は限定的であり、信頼性に関しては不確定要素が残ります。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.7}\]科学的測定に基づきニュートラルなチューニングを目指す姿勢は、合理的なアプローチです。主観的な音楽性よりも客観的な音の再現性を重視する設計思想は、透明レベルの音質達成に向けた正しい方向性を示しています。複合振動板の採用やFEA解析による最適化も、測定性能の向上に寄与する合理的な技術選択です。ただし、非科学的な主張は見られないものの、より高度なデジタル信号処理技術の活用や革新的な価格破壊への取り組みは限定的です。
アドバイス
Tanchjim Zeroは、「最小限の予算でニュートラルなIEMを求める」ユーザーにとって最適な選択肢です。15 USDという価格で分析的なサウンドと適切な技術水準を提供する製品は他に存在しません。ただし、低音の量感不足や解像度の限界は価格相応であり、より高い音質を求める場合は予算の増額が必要です。購入前にはウォームな傾向のソース機器との組み合わせを検討し、適切な出力(1-2 Vrms)を供給できる環境を整えることが推奨されます。遮音性の不足にも注意が必要です。
(2025.7.25)