Tannoy SGM10
デュアルコンセントリック技術を採用した10インチパッシブスタジオモニター。伝統的な設計と現代的な製造技術の融合を図るが、コストパフォーマンスに大きな課題
概要
Tannoy SGM10は、同社の伝説的なスタジオモニター「スーパーゴールド」の系譜を受け継ぐ10インチパッシブスピーカーです。デュアルコンセントリック(同軸)ドライバー技術により、ポイントソースイメージングと位相コヒーレンスを実現し、1970年代から多くの著名アーティストのレコーディングで使用されてきた歴史を持ちます。40Hz-30kHz の周波数応答、89dB の感度、8オーム インピーダンスを備え、20-200Wのアンプでの駆動を推奨します。キャビネットは高密度構造でDMT(Different Material Technology)を採用し、18.5kgの重量を持つ堅牢な設計となっています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.6}\]SGM10の測定仕様は40Hz-30kHz(±3dB)の周波数特性、89dBの感度、最大出力116dB SPLです。一般的にスピーカーにおいて、周波数特性±3dBは標準的な性能と見なされ、89dBの感度も適切な範囲内です。ただし、具体的なTHD測定値は公開されておらず、現代の高性能スピーカーが達成する透明性の基準(例えばTHD 0.1%以下)との比較が困難です。デュアルコンセントリック設計により理論的な位相コヒーレンス向上は期待できますが、実測でのクロストーク性能やS/N比の詳細データが不足しています。パッシブ設計により電子回路由来のノイズは回避できる一方、内蔵アンプによる最適化がなく、外部アンプとの組み合わせに依存する構造では、システム全体での測定性能保証が困難です。
技術レベル
\[\Large \text{0.7}\]デュアルコンセントリック技術は1947年から続くTannoyの中核技術で、10インチペーパーパルプコーンと33mmアルミニウム/マグネシウム合金ドームツイーターの同軸配置により、単一点音源からの音響放射を実現します。1.2kHzでの2次ローパス・1次ハイパスクロスオーバー設計は合理的です。DMT技術による高密度キャビネット構造とパーティクルボード/MDF積層パネルは振動制御に寄与します。ただし、現代の最先端技術と比較すると、磁気回路の最適化やドライバー材料技術では業界最高水準とは言えません。伝統的な設計アプローチを現代的な製造技術で再現した技術レベルと評価できます。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.1}\]SGM10の日本での価格は1台550,000円(ペアで1,100,000円)です。同等の10インチドライバーによる低域再生能力を持つ代替製品として、KRK Rokit RP10-3 G4(ペア118,800円)が最も安価な選択肢となります。より高性能な10インチアクティブモニターとしてはGenelec 1032C(ペア約740,000円)やFocal Trio11 Be(ペア約1,260,000円)が存在します。最も安価な同等製品であるKRK RP10-3 G4との比較では、118,800円 ÷ 1,100,000円 = 0.108となり、四捨五入で0.1のスコアとなります。10インチドライバーの物理的な低域再生能力は同等でありながら、アクティブ設計による内蔵アンプ最適化、DSP機能、利便性を考慮すると、パッシブ設計に対する価格プレミアムが過大です。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.8}\]Tannoyは1926年創立の老舗オーディオメーカーで、プロフェッショナル分野での実績は豊富です。英国での設計・製造により品質管理は良好で、パッシブスピーカーという性質上、電子部品の故障リスクは低く、長期信頼性は高いと評価できます。日本国内での正規代理店によるサポート体制も整備されており、修理・メンテナンス対応も可能です。ただし、新興メーカーの革新的製品と比較すると、ファームウェア更新などの現代的サポート要素はありません。パッシブスピーカーとしての信頼性は業界上位レベルです。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.9}\]SGM10の設計思想は科学的に合理的です。デュアルコンセントリック技術による単一点音源からの音響放射は、位相コヒーレンスと指向性制御の面で理論的優位性があります。パッシブ設計により電子回路由来のノイズと歪みを回避し、外部アンプとの組み合わせで最適化を図る姿勢は合理的です。スタジオモニターとしてのフラットな周波数特性を目指す方向性も適切で、エネルギーコントロールシステムによる調整機能も実用的です。1970年代の名機を現代的な製造技術で再現するアプローチは、測定性能向上への取り組みとして評価できます。オカルト的要素は排除され、音響工学に基づいた設計思想が貫かれています。
アドバイス
SGM10は伝統的なスタジオモニター設計を現代に蘇らせた製品として技術的価値はありますが、コストパフォーマンスの課題が大きく、一般的な購入推奨は困難です。1,100,000円の予算があるなら、KRK RP10-3 G4ペア(118,800円)で基本的な10インチモニタリングを実現し、残予算でルーム補正システムやアンプを充実させる方が合理的です。より高性能な選択肢としてGenelec 1032Cペア(約740,000円)やFocal Trio11 Beペア(約1,260,000円)、Neumann KH420ペア(約1,580,000円)があり、いずれもSGM10を上回る測定性能と現代的機能を提供します。SGM10を選択する合理的理由は、デュアルコンセントリック技術への特別なこだわりか、パッシブ設計による外部アンプとの組み合わせ最適化を図りたい場合に限定されます。プロフェッショナル用途であっても、現代的なアクティブモニターの方が測定性能、利便性、拡張性すべてにおいて優位です。
(2025.8.1)